個人事業主の事業継承について

個人事業主の事業継承

個人版の事業承継税制

令和元年度の税制改正により個人の事業用資産についての相続税・贈与税の納税の猶予や免除という優遇制度が創設されました。 優遇策にはそれぞれメリットとデメリットに留意する必要があります。事業を承継するにはヒト、モノ、カネ、情報、技術などたくさん引き継ぐことがあります。

事業承継前に事業者が死亡してしまうこともあります。転ばぬ先の杖が必要です。

個人事業の事業承継の方法

事業承継の引継先は、おおきく3つに分かれます。

1つ目は、親族(子どもなど)による事業承継です。
2つ目は、親族外(従業員など)による事業承継です。
3つ目は、後継者不在による事業の売却です。

詳しくは、お問い合わせください。

個人事業者と後継者の税務手続き

個人事業は、株式会社と異なり株式の発行がないため、先代事業者(贈与者)が廃業手続きを行い、後継者が開業の手続きを行うことで事業承継ができます。 事務手続き的には、先代が個人事業の廃業届出書等の書類を所轄税務署に提出し、後継者が個人事業の開業届出書等の書類を同様に所轄税務署に提出します。 詳しくは、お問い合わせください。

事業用資産2,000万円を贈与により承継する時の贈与税

一度に事業用財産を暦年課税により贈与する場合

贈与税額は、2,000万-110万(基礎控除)=1,890万
1,890万×45%-265万=5,855,000円となり、約580万円の贈与税の負担が生じます。

贈与税率は、贈与財産の価額に応じ最高55%にもなります。 そのため、土地建物のような高価なものについては贈与税が多額になるため、 実際には贈与により事業承継する前に、税金の負担も配慮しなければいけません。 不動産は先代から無償で借りて使用していくことも選択肢の1つとなります。

一度に事業用財産を相続時精算課税を選択して贈与する場合

上記の贈与の他に相続時精算課税による贈与というものもあります。 贈与者、受贈者それぞれに要件がありますが、その要件を満たした場合には、次のとおり贈与税は発生しません。 例えば「事業用資産2000万の贈与のケース」では、贈与税額は、2000万-2000万(特別控除額)=0円となります。 特別控除額は最高2500万円ですが、このケースでは贈与財産の価額が特別控除額2500万円の範囲で収まったため、贈与税額はゼロとなります。 贈与財産の評価額が例えば3000万円の場合には、3000万から2500万を控除した500万円に対し税率20%が乗じられ、贈与税額は100万円となります。

こうしてみると、相続時精算課税による贈与の方がお得なように感じますが、この贈与した財産の価額は、贈与をしたときの財産の評価額で相続の時に先代の財産の評価額に加算され、相続税が計算されることになります。 精算課税の文字通り、生前贈与分を相続の時に精算することとなるのです。

なお、相続時精算課税は一度選択すると撤回できず、それ以後の贈与はすべて相続時精算課税による贈与ということになります。

そのため、この相続時精算課税制度を利用する際には、後の相続のことも見すえて、相続税のシミュレーションなどを十分行ったうえで利用すべきものになります。詳しくは、お問い合わせください。

相続により事業用資産を承継する場合

先代が亡くなった場合には、後継者は先代の廃業手続きを行い、後継者自身の開業手続きを 行います。これは贈与時と基本的には変わりがありません。

例えば、先代の保有財産が相続時

事業用の土地建物3000万
事業用の機械2000万
居住用の土地建物3000万
現金預金等 2000万
合計1億円

相続人は配偶者と子2人としましょう。ここでは、配偶者の税額軽減などの特例は考慮しないこととします。

個人版事業承継税制による相続を利用しなかった場合

相続税の基礎控除額は
3000万円×600万×3=4800万となり、 遺産がこの4800万円以下であれば、相続税はゼロとなります。

課税遺産総額は、遺産総額から基礎控除額を差引き、
1億円-4800万=5200万となり、
相続税総額は
配偶者 5200万×1/2=2600万 →2600万×15%-50万=340万
子(後継者)5200万×1/4=1300万 →1300万×15%-50万=145万
子  5200万×1/4=1300万 →1300万×15%-50万=145万
合計630万

これは相続税全体の総額を計算する算式となります。 後継者が事業用の土地建物、機械の合計5000万(50%)を相続し、 配偶者が居住用の土地建物3000万(30%)を相続し、 子の一人が現金預金等2000万(20%)を相続した場合には、 後継者の納付税額は、相続税総額630万×50%(取得した財産の割合)=315万となります。 配偶者、子の一人は同様に計算され、それぞれ189万、126万の納付税額となります。

個人版事業承継税制による相続を利用した場合

子(後継者が)が取得した事業用の土地建物3000万、事業用の機械2000万  合計5000万の財産がすべて「特定事業用財産」に該当しているとします。

「特定事業用財産」については、後述します。 この場合、後継者が納付する相続税は、ゼロとなります。 後継者の相続税についての計算は、次のようになります。

1.全ての財産の価額に基づき後継者の相続税を計算

上記のとおり、後継者の相続税は315万円

2.後継者が特定事業用財産のみを取得したとしたこ場合の相続税の計算

ここでは、後継者は特定事業用財産しか取得していないため 上記と同様の計算となり、特定事業用財産対応分の相続税は315万

3.猶予の税額計算

特定事業用財産に対応した猶予税額は315万となり、 相続税の納付税額は「1」から「2」を差引きゼロとなるため、納付する税金は ありません。

個人版事業承継税制の方が、納める税がないため有利に見えますが、 この制度にもさまざまな要件があり、簡単にはいきません。 後継者が一定の事業用財産を相続した場合に、その財産に係る相続税が猶予 されるというものになります。

猶予というと良いイメージに聞こえないかもしれませんが、 一定の時期(亡くなる時など)まで後継者が事業を続けていれば猶予された税は 免除されることになります。 では、個人版事業承継税制は、どのようにすれば適用できるのでしょうか?

個人版事業承継税制の内容

期間限定

この制度は、相続に限らず贈与にも適用されます。 ただし、期間は限定的で、平成31年1月1日から令和10年12月31日までの贈与・相続等で なければいけません。

申請の流れ

①個人事業承継計画を県に提出する。
②贈与の実行・相続開始 
③認定申請書を県に提出する。(期限:贈与・・・贈与の翌年1月15日 相続…相続開始後8月以内)
④申告書を税務署に提出する。(期限:贈与・・・贈与の翌年3月15日 相続…相続開始後10月以内)
以上の4ステップとなります。

注意点としては、①の計画書の提出期限は令和6年3月31日までになっており、(1)の期限である令和10年12月31日より前に設定されています。そのため、この制度を適用する可能性があるのであれば、計画書を前もって提出しておく必要があります。なお、期限は厳守となります。認定申請書の期限から税務申告の期限まで2月と期間がタイトなため、相当な準備が必要です。また、申告後には、3年ごとに継続届出書を税務署に提出します。

       

特定事業用財産

宅地等(400㎡まで)建物(床面積800㎡まで)機械や車両などの減価償却資産など
対象資産は、相続・贈与の日の前年分の事業所得に係る青色申告書の貸借対照表に計上されていたものとなっています。そのため、先代事業者は、青色申告者でなければいけません。

先代事業者の主な要件

・青色申告者であること
・不動産貸付業等ではない
・売上がある

後継者の主な要件

・認定申請時まで個人の開業届出書、青色申告承認申請書を提出している
・相続、贈与により特定事業用資産の全てを取得し、その事業に係る取引を記録し、帳簿書類を備えつけている
・贈与の場合、贈与時20歳以上である
・贈与の場合、承継する事業か類似の事業に3年以上従事していた
・相続の場合、承継する事業か類似の事業に従事していた(一定の場合を除く)

         

猶予の取り消し

後継者に次のようなことが生じた場合には、猶予されている税を利子税とともに納めなければいけません。このことが制度の適用にあたり一番のネックとなります。

・事業を廃止した場合
・青色申告の承認が取り消された場合
・売上がゼロとなった場合など

後継者の死亡等

後継者が死亡したり、やむをえない事情により事業継続が難しくなった場合など、例えば次のような要件に該当した場合には猶予されていた税は免除されます。

・後継者が死亡した
・一定の期間経過した後に次の後継者に特例事業用資産の贈与を行った
・障害者に該当した場合などやむを得ない事情が生じ、事業継続が困難になった

その他

・相続の際には、特定の事業用の宅地について小規模宅地の特例という制度があります。400㎡までの宅地等について課税価格を80%減額するものです。この制度は、個人版事業承継税制と併用できません。

・平成31年1月にはじまったばかりの制度のため、みなさん手探りの状況ですこの制度の適用を受けることができるのか、そもそも受ける必要のないものなのか、なかなか判断できるものではありません。まずは、制度に詳しく経験のある専門家と相談してみることをおすすめします。

まとめ

事業を承継する方法に正解はありません。先代事業者や後継者はさまざまな境遇にあり、事業の内容もバラバラですどうすれば事業をスムーズに、過度の税負担なく次の世代に引き継ぐかは、税務のうえでは贈与税、相続税のシミュレーションが大事になります。ただ、事業を承継するのに税金のことだけ考えているわけにもいきません。自己の現状と周りの環境を考慮し、将来を見据えた対策がカギとなると思います。親族や関係者との相談はもちろんですが、第三者でもあり、税務の経験値も高い専門家に一声かけてみてはいかがでしょうか? 

  お問い合せ0256-92-6120

田中操税理士事務所