法人の事業継承と相続について

法人の事業継承について

法人の事業承継

会社の経営者が突然死亡されると事業の継続はもとより相続税の負担が重くのしかかりお困りの方が見受けられます。 そこで相続税、贈与税の納税の猶予や免除の制度を活用して事前に事業承継の準備を始めることもできます。

法人の事業承継税制の概要

相続税の対象となる財産で代表的なものは、現金や預貯金、不動産などがありますが、会社経営者の多くの方は、さらに自分が経営する会社の株式を所有している場合がほとんどです。

その株式の評価額は、会社の財産の状況に応じて大きく変わってきます。その評価額は相続税や贈与税の税金の計算に大きな影響を与えます。

この事業承継の税金の制度は株式の評価額に対応する相続税や贈与税を負担することなく株式を後継者に引き継ぐことができますので、事業承継税制の特例を活用してみてはいかがでしょうか。

事業承継税制の仕組み

株式に対応する相続税や贈与税の負担軽減を目的とした事業承継税制(一般制度)は以前から存在していましたが、会社経営者の高齢化等の理由を背景に平成30年度の改正により特例制度として仕組みが改良されました。

改良点はいくつかありますが大きく2点あります。(その他の改良点についてはお問い合わせください。)

法人の事業税制の改良点その1

先代経営者が所有していた株式を相続や贈与により後継者が取得した場合にその株式の全部にこの制度が適用できるようになりました。

法人の事業税制の改良点その2

その株式の金額に対応する相続税額や贈与税額の100%が納税猶予又は免除の対象となりました。 上記の改良により先代経営者が所有していた株式を後継者が相続や贈与により取得した場合には、その株式に対応する相続税や贈与税を負担することなく取得できることになりました。

この特例制度は、平成30年1月1日から令和9年12月31日までの間の相続や贈与について利用することができます。ただし、この特例制度を利用するためには一定の書類の提出などが必要となります。

納税の猶予や免除は、一定の要件を満たす限り継続されますが、その要件を満たさなくなった場合には猶予されていた税金などを納付しなければなりませんので検討は慎重に行う必要があります。 なお、以前から存在していた事業承継税制(一般制度)は現在でも利用できますので詳しい内容についてはお問い合わせください。

制度を利用するケース

株式の金額は、会社の財産の状況に応じて変化します。原則として会社に利益が出れば金額は上昇し、損失が出れば金額は減少することになります。 利益を出し続けることができる会社であれば株式を事前に贈与しておくのも方法の1つです。

株式を相続により引き継ぐケース

一般的には、先代経営者(父)→後継者(長男)→次の後継者(長男の息子)の順に相続があった場合が考えられます。

1.父が亡くなったときに、長男が相続により株式を取得する。
→長男が相続税の「納税猶予」を受けることになります。

2.長男が亡くなったときに、長男の息子が相続により株式を取得する。
→長男が受けていた相続税の「納税猶予」はその納税が「免除」となり、長男の息子が新たに相続税の「納税猶予」を受けることになります。

株式を贈与により引き継ぐケース

一般的には、先代経営者(父)が後継者(長男)へ贈与した後、先代経営者(父)が亡くなった場合が考えられます。

1.父が亡くなる前に、長男が贈与により株式を取得する。
→長男が贈与税の「納税猶予」を受けることになります。

贈与の後、父が亡くなった場合
→長男が受けていた贈与税の「納税猶予」はその納税が「免除」となり、その長男が新たに相続税の「納税猶予」を受けることになります。

また、贈与による引き継ぎには、「暦年課税による贈与」と「相続時精算課税による贈与」の2種類があります。 それぞれの贈与の詳しい内容についてはお問い合わせください。

相続により引き継ぐ場合の相続税の計算例

【前提条件】

相続人:先代経営者の子である長男(後継者)と次男(非後継者)の2人。 先代経営者の相続財産:株式6,000万円とその他の財産6,000万円の合計1億2千万円。 相続の内容:長男が株式6,000万円、次男がその他の財産6,000万円を相続

特例制度を使わない場合の長男と次男の相続税額

財産の価格【1】

6,000万円+6,000万円=1億2,000万円

基礎控除額【2】

3,000万円+600万円×2人=4,200万円

課税される遺産の総額【3】

1億2,000万円-4,200万円=7,800万円

相続税の総額【4】

(7,800万円÷2×20%-50万円)×2人=1,460万円

納める相続税額【5】

長男1,460万円×6,000万円÷1億2,000万円=730万円
次男1,460万円×6,000万円÷1億2,000万円=730万円

特例制度の使った場合の長男と次男の相続税額

【1】から【4】の項目は変更ありませんが、長男の【5】の部分が変更となります。
長男730万円→0円

相続した株式に対応する相続税が納税猶予となります。
次男730万円

特例制度の対象となる株式を取得していないため上記と同額となります。

贈与により引き継ぐ場合の贈与税の計算例

【前提条件】

贈与を受ける人:先代経営者の子である長男(後継者) 先代経営者が贈与する財産:株式6,000万円

特例制度を使わない場合の贈与税額

暦年課税による贈与の場合

(6,000万円-110万円)×55%-640万円=2,599万5,000円

相続時精算課税による贈与の場合

(6,000万円-2,500万円)×20%=700万円

特例制度を使った場合の贈与税額

暦年課税による贈与の場合

2,599万5,000円→0円

相続時精算課税による贈与の場合

700万円→0円

贈与を受けた株式に対応する贈与税が納税猶予となります。(贈与の方法は関係ありません。)

特例制度の利用するための手続き

「特例承継計画」の提出

令和5年3月31日まで会社の経営見通し等を記載した「特例承継計画」作成し、認定経営革新等支援機関の所見を記載の上、新潟県知事に提出し、その確認を受けなければなりません。 なお、当事務所は認定経営革新等支援機関であるため作成の支援や所見の記載をさせていただくことが可能です。

円滑化法の認定を受ける

相続税や贈与税の申告期限の2か月前までに、この特例制度を利用するための要件を満たすことについての申請を行い、新潟県知事の認定を受けなければなりません。

担保の提供

相続税や贈与税の申告期限までに、納税猶予額などに見合う担保を税務署長に提供しなければなりません。

「継続届出書」の提出

特例制度を継続して利用するためには、相続税や贈与税の申告期限後の5年間は毎年「継続届出書」を税務署長と新潟県知事に提出しなければなりません。また6年目以降は3年に1回その書類を提出しなければなりません。

「免除届出書」の提出

相続税の場合には後継者が死亡した場合、贈与税の場合は先代経営者が死亡した場合に、「免除届出書」を提出することにより相続税又は贈与税が免除となります。

その他、手続きの詳細についてはお問い合わせください。

納税猶予が受けられなくなる場合

要件を満たさなくなった場合【※1】

満たさなくなった場合とは、主として相続又は贈与により取得した株式の一部又は全部を売却した場合、後継者が会社の代表でなくなった場合などがあげられます。

納税猶予額などの納付

上記【※1】の要件を満たさなくなった場合には、納税が猶予されていた相続税や贈与税の一部又は全部を納付しなければなりません。それに加え利子税(税金の利息)も納付しなければなりません。

要件については細かく規定されていますので詳細についてお問い合わせください。

「猶予」と「免除」の違い

「猶予」は、「納税を待ってもらっている状態」であり税金を納めなくてもいいというわけではありません。したがって上記のように要件を満たさなくなった税金を納める必要があります。

「免除」は、「税金を納める必要がない状態」をいいます。

株式の金額の計算

株式の金額は、会社の「純資産の金額」が目安となりますが、正確には「株式の評価額」といわれ、会社の財産と債務を時価により評価し計算した金額となります。

この特例制度は「株式の評価額」を基礎として相続税や贈与税の計算をすることになります。 計算の詳細についてはお問い合わせください。

お問い合せ0256-92-6120

田中操税理士事務所