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2016.06.17

相続税における葬式費用の債務控除

相続税では被相続人に係る葬式費用についても被相続人の債務のほかに債務控除を適用します。債務控除の適用対象者は、下記1の通り、相続又は遺贈により財産を取得した者が無制限納税義務者で相続人と包括受遺者に限られます。
葬式費用は本来被相続人の債務ではないですが、相続の開始により必然的に生ずるものであり相続財産から支弁されるものともいえるところから、相続税法においては、被相続人の債務と同様に債務控除の対象とし、控除の対象となる葬式費用は、被相続人が死亡してから納骨するまでの費用のうち下記2(1)に掲げる葬式費用となります。

1.葬式費用について債務控除の適用対象者

相続又は遺贈により財産を取得した者が、いわゆる無制限納税義務者である場合には、被相続人の債務のほかに被相続人に係る葬式費用についても債務控除を適用することとされています。無制限納税義務者が相続又は遺贈により取得した財産のすべてについて相続税の納税義務を負うのに対して、制限納税義務者は相続又は遺贈により取得した財産のうち法施行地にあるものだけについて相続税の納税義務を負うこととなっているため、制限納税義務者の債務控除は、相続税が課税される財産によって担保される債務に限られ、葬式費用の控除は制限納税義務者については認められていません。さらに債務控除の適用対象者は、相続人と包括受遺者に限られています。
したがって相続放棄をした者やもともと相続権のなかった者については、債務控除の適用はありません。もっとも、相続放棄とは、財産と債務の承継をしないという法的手続であり、また、相続権のない者が被相続人の債務を承継することはあり得ないことから、これらの者に債務控除の規定を適用しないこととしたのは、当然のことであります。
例えば、内縁の妻は相続権者でないことは明らかであり、はじめから債務控除の適用はないことになります。

2.債務控除の対象となる葬式費用

債務控除の対象となる葬式費用について、相続税法は何が債務控除の対象となる葬式費用に該当するのかを何ら規定していませんが、一般的に葬式費用は死者の追悼儀式に要する費用及び埋葬等の行為に要する費用(死体の検案に要する費用、死亡届に要する費用、死体の運搬に要する費用及び火葬に要する費用等)であるといわれています。しかしながら、葬式は宗教やその地域の慣習によりその様式が異なりますから、結局のところ個々の事案について社会通念に即して判断せざるを得ないことになります。

(1)課税実務における葬式費用の取扱い

相続税法基本通達13-4により、相続税の課税実務においては葬式費用として控除する費用の範囲については次の通り取扱います。
①葬式若しくは葬送に際し、又はこれらの前において、埋葬、火葬、納骨または遺がい若しくは遺骨の回送その他に要した費用(仮葬式と本葬式とを行うもにあっては、その両方の費用)
②葬式に際して施与した金品で、被相続人の職業、財産その他の事情に照らして相当程度と認められるものに要した費用
③葬式の前後に生じた出費で通常葬式に伴うもの
④死体の捜索または死体若しくは遺骨の運搬に要した費用

(2)債務控除の対象とならない葬式費用

相続税法基本通達13-5により、仏具代、香典返戻費用や初七日、四十九日法要費用など
法会に要する費用など次に掲げる費用は葬式費用としては取り扱わないとしています。
①香典返礼費用
②墓碑及び墓地の買入費並びに墓地の借入料
③法会に要する費用
④医学上又は裁判上の特別の処置に要した費用

3.債務控除の対象となる葬式費用の負担者について

これらの葬式費用を誰が負担すべきかについてですが、そもそも追悼儀式としての葬式を行うか否か、それを行うにしても、その規模をどの程度にし、どれだけの費用をかけるかについては、葬儀の主宰者(もっぱら喪主である追悼儀式の主宰者)がその責任において決定し、実施するものということができますから、葬儀の主宰者がその費用を負担すべきものと考えられます。他方、最高裁平元.7.18第三小法定判決によれば、祭祀の承継者(遺骸または遺骨の所有権は民法897条に従って慣習上、祖先の祭祀を主宰すべき者)に帰属するものということができますから、その管理、処分に要する費用も祭祀承継者が負担すべきものといえます。
そうすると、最高裁平24.3.29最高裁判決によれば、追悼儀式に要する費用については、自己の責任と計算において、追悼儀式を準備し、手配等して挙行した者である葬儀の主宰者が負担し、一方、埋葬等の行為に要する費用については亡くなった者の祭祀承継者が負担すべきものと考えられます。
ところで、相続税における債務控除は、被相続人の債務及び葬式費用の金額を相続または遺贈により取得した財産の価額から控除するものですが、このうち葬式費用は、もともと被相続人の債務ではありませんから、相続または遺贈により財産を取得した者が本来の相続または遺贈との関連において負担する性質のものではなく、喪主をはじめとする被相続人の遺族や関係者が負担するのが社会通念であるといえます。
実際問題として、葬式費用を相続を放棄した者や相続権を失った者あるいは相続権のない内縁の関係にある者が遺族の一人として、負担することがあります。そして、相続税法13条1項は、その括弧書きにおいて、債務控除することができる者を
①相続により財産を取得した者、
②相続人と同一の権利義務を有する包括遺贈(民法990)により財産を取得した者及び
③被相続人から相続人に対する遺贈により財産を取得した者に限定しています。
そうすると、相続を放棄した者、相続権を失った者及び相続権のない内縁関係の者は、いずれも、上記①ないし③の者に該当しませんから、相続税法第13条の規定の適用はないことになります。
しかし、このうち相続を放棄した者及び相続権を失った者については、もともと相続人であった者であり、これらの者が祭祀承継者であるケースも考えられますから、相続税法基本通達13-1により、課税実務においては相続を放棄した者及び相続権を失った者が現実に被相続人の葬式費用を負担した場合には、その負担額をその者の遺贈によって取得した財産の価額から債務控除することを認める取扱いをしています。
ところで、内縁は、社会一般には夫婦としての実質をもちながらも、婚姻の届出を欠いているために法律上の夫婦と認められない関係をいい、同居、協力及び扶助の義務(民法752)や婚姻費用の分担(民法760)、日常の家事に関する債務の連帯責任(民法761)などの民法の婚姻に関する諸規定が類推適用され、また、厚生年金保険法や国家公務員災害補償法などの特別法上も、内縁関係の者に社会保険や社会保障の受給資格を認める扱いがされています。
その一方で、配偶者相続権、姻族関係、成年擬制などの画一的に処理されるべき法律効果については、内縁関係について認められておらず、相続税の課税上も、現在のところ、内縁関係にある者が葬式費用を負担したとしても、その負担額をその者の遺贈によって取得した財産の価額から債務控除することを認める取扱いはされていません。

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