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2016.05.26

相続税の債務控除のしくみ

相続税の債務控除の対象となる債務は、被相続人の債務を相続人が引き継いだ場合に、原則として相続の際に現に存し、かつ、確実と認められるものに限り、相続税の課税価格の計算上、相続により取得した財産の価額から控除することができる制度です。
相続税は、正味財産に課税されますので、相続開始時に現に存する被相続人の債務で、確実なものについては、原則としてその債務額を相続により取得した財産の額から控除することができます。
債務控除の制度が適用される人は相続人と包括受遺者に限定されているため、相続を放棄した者は相続人には含まれませんので、相続を放棄した者が遺贈を受けていても、相続を放棄した者が負担した債務の額を遺贈を受けた財産の価額から控除することはできませんので注意が必要です。

1.債務が確実であるという債務控除の要件

相続税の債務控除の対象となる債務は、その債務が確実である必要がありますが、必ずしも書面の証拠があることを必要とするものではなく、債務の金額が確定していなくても、その債務の存在が確実と認められるものについては、相続開始当時の現況により確実と認められる範囲の金額については、債務として控除することができます。しかし実際問題として書面等がまったく存在しない場合に債務の確実性とその債務の額を立証することは、相当に困難を極めますので具体的な証拠資料を用意していただくことが有効です。
債務控除をすることができる債務の具体的な例としては、借入金債務、未払いの公共料金や医療費、預かり保証金などがあります。一方、被相続人の債務であっても、墓所霊びょう等の非課税財産の取得や維持または管理のために生じた債務は控除することができませんので注意が必要です。
また、被相続人の保証債務については、原則として債務控除の対象とはなりませんが、保証債務のうち、主たる債務者が弁済不能の状態にあるため、保証債務者がその債務を履行しなければならない場合で、かつ、主たる債務者に求償して返還を受ける見込みがない場合には、主たる債務者が弁済不能の部分の金額は、その保証債務者の債務として控除することができます。連帯債務については、連帯債務者のうちで債務控除を受けようとする者の負担すべき金額が明らかとなっている場合には、その負担金額を控除することができます。

2.債務控除を適用できる者の要件

債務控除の規定が適用される者は、相続人と包括受遺者に限定されており、相続放棄した者は、相続人には含まれませんから、相続放棄した者及び相続権のない者については、相続税法13条に規定する債務控除はできないとになります。
したがって、相続を放棄した者は、遺贈を受けた財産について相続税の課税対象となる場合であっても、医療費などの被相続人の債務の負担額を遺贈を受けた財産の価額から控除することはできませんので注意が必要です。。
ただし、相続放棄した者及び相続権を失った者が現実に被相続人の葬式費用を負担した場合においては、その負担額は、その者の遺贈によって取得した財産の価額から債務控除することができます。

3.控除不足となる場合の債務控除の取扱い

債務控除で引ききれないマイナス分が発生した場合に債務を負担していない他の共同相続人の課税価格から差し引くこと及び加算された贈与財産の価額から差し引くことは、いずれもできませんので注意が必要です。
(1)相続税法13条1項の規定により、相続または遺贈により取得した財産に係る相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から、被相続人の債務等の金額のうち、当該財産を取得した者の負担に属する部分の金額を控除した金額によることとされています。この規定でいう「その者の負担に属する部分の金額」とは、相続税法基本通達13-3によれば、相続または遺贈によって財産を取得した者が実際に負担する金額をいうものと解されます。これらの者の実際に負担する金額が確定していないときには、民法900条から902条までの規定による相続分または包括遺贈の割合に応じて負担する金額をいうものとして取り扱うこととされています。これは、未分割の財産については、相続税法上、民法の規定による相続分または包括遺贈の割合に従って財産を取得したものとして相続税の課税価格を計算することとされており、債務等についてこれと同様の計算方法を認めたものと解されます。
共同相続人または包括受遺者がその者の相続分または包括遺贈の割合に応じて被相続人の債務を負担することとした場合の各金額が、共同相続人または包括受遺者が、相続または遺贈により取得した財産の価額を超えることとなる場合に、その超える部分の金額を、他の共同相続人または包括受遺者の相続税の課税価格の計算上、控除することとして申告があったときは、これを認めることとして取り扱われています。
実際に負担する金額が確定していない段階においては、債務等の超過分を相続税の課税価格の計算上切り捨ててしまうとすれば、課税の公平の観点から相当でないと考えられることから、他の共同相続人の相続税の課税価格の計算においても控除することを認めたものと解されています。
(2)平成22年3月15日の国税不服審判所裁決によれば、上記通達13-3の場合において、共同相続人の中に債務等超過分を控除することが可能な者が複数いるときに、それぞれの者が任意に債務等超過分を自己の相続税の課税価格の計算上控除して申告できることまで許すとすると債務等超過分が重複して控除されることになり、この取扱いはそのような重複控除までをも認める趣旨のものとは解されませんので共同相続人の中に債務等超過分を控除することが可能な者が複数いる場合には、これらの者の間において債務等超過分をどのように配分するかについての合意がなされていることが前提になっているものと解されています。これはあくまでも、相続財産の分割や債務負担の合意がされておらず、これらが最終的に決定されるまでの過渡的な状況で発生した債務等超過分を相続税の課税価格の計算上切り捨ててしまうことを避ける趣旨のものであって、相続財産の分割や債務負担の合意が確定した場合に、相続財産の価額を超えて債務を負担することとなった者の債務超過分を、他の共同相続人または包括受遺者の課税価格から控除することを認める趣旨のものではなく、その旨を定めた法令の規定はありませんので、仮に、共同相続人や包括受遺者の中に、相続財産の価額を超えて債務を負担することとなった者があったとしても、その者の債務超過分を、他の共同相続人や包括受遺者の相続税の課税価格を計算するに当たって控除することはできませんので注意が必要です。
(3)相続税法13条により、相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から、被相続人の公租公課を含む債務で相続開始の際現に存するもの及び被相続人に係る葬式費用の金額のうち、その者の負担に属する部分の金額を控除した金額によるとされています。
(4)相続税法19条により、相続開始前3年以内に贈与があった場合の相続税額について、当該贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなして、遺産に係る基礎控除、相続税の総額、各相続人等の相続税額及び相続税額の2割加算の各規定を適用して算出した金額をもって、その納付すべき相続税額とするとされていますので、まずは、贈与加算する前の相続財産の価額から被相続人の債務を控除した金額を、相続税の課税価格に算入すべき価額とし、これに生前贈与財産の価額を加算したものを、相続税の課税価格とみなして相続税額を算定することになります。
(5)債務控除は上記(3)(4)により、、相続開始前3年以内に贈与により取得した財産の価額を加算する前の課税価格から行うことになりますので、仮に、相続人が負担することとなった債務の額が、相続により取得した財産の価額を超えることとなったとしても、結果として、その超える部分の金額を他の共同相続人の相続税の課税価格の計算上、控除することはできないことになります。

4.債務控除の参考法令一部抜粋

相続税法第13条(債務控除)

相続又は遺贈(包括遺贈及び被相続人からの相続人に対する遺贈に限る。以下この条において同じ。)により財産を取得した者が第一条の三第一項第一号又は第二号の規定に該当する者である場合においては、当該相続又は遺贈により取得した財産については、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による。
一 被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含む。)
二 被相続人に係る葬式費用
2 相続又は遺贈により財産を取得した者が第一条の三第一項第三号の規定に該当する者である場合においては、当該相続又は遺贈により取得した財産でこの法律の施行地にあるものについては、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から被相続人の債務で次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による。
一 その財産に係る公租公課
二 その財産を目的とする留置権、特別の先取特権、質権又は抵当権で担保される債務
三 前二号に掲げる債務を除くほか、その財産の取得、維持又は管理のために生じた債務四 その財産に関する贈与の義務
五 前各号に掲げる債務を除くほか、被相続人が死亡の際この法律の施行地に営業所又は事業所を有していた場合においては、当該営業所又は事業所に係る営業上又は事業上の債務
3 前条第一項第二号又は第三号に掲げる財産の取得、維持又は管理のために生じた債務の金額は、前二項の規定による控除金額に算入しない。ただし、同条第二項の規定により同号に掲げる財産の価額を課税価格に算入した場合においては、この限りでない。

相続税法第14条

前条の規定によりその金額を控除すべき債務は、確実と認められるものに限る。
2 前条の規定によりその金額を控除すべき公租公課の金額は、被相続人の死亡の際債務の確定しているものの金額のほか、被相続人に係る所得税、相続税、贈与税、地価税、再評価税、登録免許税、自動車重量税、消費税、酒税、たばこ税、揮発油税、地方揮発油税、石油ガス税、航空機燃料税、石油石炭税及び印紙税その他の公租公課の額で政令で定めるものを含むものとする。

相続税法基本通達3-1(「相続を放棄した者」の意義)

相続税法第3条第1項に規定する「相続を放棄した者」とは、民法第915条((相続の承認又は放棄をすべき期間))から第917条までに規定する期間内に同法第938条((相続の放棄の方式))の規定により家庭裁判所に申述して相続の放棄をした者(同法第919条第2項((相続の承認及び放棄の撤回及び取消し))の規定により放棄の取消しをした者を除く。)だけをいうのであって、正式に放棄の手続をとらないで事実上相続により財産を取得しなかったにとどまる者はこれに含まれないのであるから留意する。

相続税法基本通達13-1(相続を放棄した者等の債務控除)

相続を放棄した者及び相続権を失った者については、相続税法第13条の規定の適用はないのであるが、その者が現実に被相続人の葬式費用を負担した場合においては、当該負担額は、その者の遺贈によって取得した財産の価額から債務控除しても差し支えないものとする。

相続税法基本通達14-1(確実な債務)

債務が確実であるかどうかについては、必ずしも書面の証拠があることを必要としないものとする。
なお、債務の金額が確定していなくても当該債務の存在が確実と認められるものについては、相続開始当時の現況によって確実と認められる範囲の金額だけを控除するものとする。

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