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2016.05.19

相続の放棄があった場合の相続税の申告と債務超過の相続

相続税の基礎控除額の計算や相続税の総額を求める場合の相続人は、相続の放棄があった場合であっても、その放棄がなかったものとした場合における相続人とされています。相続の放棄とは被相続人の財産に属した権利義務の承継を拒否する行為であり、相続を放棄すると、その相続放棄者は、その相続に関しては初めから相続人とならなかったものとみなされることになります。

1.相続放棄による債務超過の相続への対応

相続税の申告事案には、さまざまなケースがありますが、ときには債務超過の相続に関わることがあります。相続財産が明らかにマイナスであるときは、債務の引継を免れようとする相続人にとっては相続の放棄は実益があることになります。この場合には、通常は相続税の申告を要しないことになります。債務超過の相続についての対応には限定承認相続もありますが、一般的には相続の放棄を選択される相続人が多く存在します。
相続の放棄をするためには、民法915条及び938条の規定により、相続の開始があったことを知った日から3か月以内に相続放棄申述書を被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に提出しなければなりません。この3か月という熟慮期間が問題で、相続財産の内容が複雑だったり債務の存在と金額を確認するために相当の期間を要すると見込まれるなどの理由がある場合には、熟慮期間を延長することを家庭裁判所に請求することができますが早急な対応が必要となります。

2.限定承認相続による債務超過の相続への対応

相続の放棄と同様に債権者の犠牲のもとに相続人を保護する制度として、相続財産の範囲内で相続債務を負担するという限定承認相続があります。相続について限定承認を行うには民法924条の規定により、相続の開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所に家事審判申立書により申立てをしなければなりません。上記1の相続の放棄と異なる点は、限定承認の申立ての場合は相続人の全員が行わなければならないので共同相続人の一部に単純承認をする人があれば、他の相続人は限定承認をすることはできませんので注意が必要です。更に所得税法59条の規定により、限定承認を行った場合には被相続人に対する「みなし譲渡」の規定が適用されるなど、税務上の取扱いにも留意する必要があります。

3.相続の放棄があった場合の相続人と相続税の計算

相続税の基礎控除額や相続税の総額を求める場合の相続人は、相続の放棄があった場合であっても、その放棄がなかったものとした場合における相続人とされています。

(1)法定相続人の法定相続分による相続税の計算

例えば、夫が死亡し、その配偶者とその子である長男と長女が父の遺産を相続するにあたり配偶者と長男が相続を放棄した場合でも、相続税の基礎控除額や相続税の総額を求める場合の相続人は配偶者と長男と長女の3人であり、その法定相続分は配偶者が2分の1、長男及び長女が各々4分の1となります。

(2)法定相続人の数により計算する相続税の非課税限度額

上記(1)の例題の場合に生命保険金や退職手当金の非課税限度額は、500万円×法定相続人3人で1,500万円となります。
注1)被相続人の死亡により相続人等が受け取る保険金は、被相続人に帰属した後に相続人等が取得するのではなく、保険契約に基づいて、被相続人の死亡という事実の発生によって相続人等が受け取るべきものであり、法律的には、相続により取得した財産ではありませんが、被相続人が保険料を負担し、その死亡により相続人等が受け取る保険金は、本来の相続財産と経済的実質は何ら異なるものではありませんので相続税法は生命保険金等を「みなし相続財産」として、相続税を課税することにしています。
注2)被相続人の死亡により被相続人に支給されるべきであった退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与(弔慰金、花輪代、葬祭料等のうち実質的に退職手当金の性質を有するものを含みます。)は、相続人または相続人以外の者が支給者から直接に支給を受けるものであって、本来の相続財産を構成するものではありません。
注3)被相続人に支給されるべきであった退職手当金等の実質は、被相続人が死亡したために相続人等に支給されたもので、本来の相続財産と経済的実質は何ら変わりませんから、生命保険金と同様に、相続税法は退職手当金等を「みなし相続財産」として、相続税を課税することとしています。
注4)この生命保険金等や退職手当金等のみなし相続財産のうち、相続人が取得したものについては、生命保険制度を通じて貯蓄増進を図る見地のほか、残された相続人の生活安定等の社会的見地から、一定の金額が非課税とされています。
この非課税とされる一定の金額、すなわち非課税限度額は、500万円に相続人の数を乗じて計算することになりますが、この場合の相続人数も、基礎控除額や相続税の総額を算出するための相続人と同様に計算することになります。
注5)生命保険金等や退職手当金等の一定金額の非課税の規定は、被相続人死亡後の相続人の生活の安定等のために設けられたものであり、その適用が受けられる者は相続を放棄した者や相続権を失った者以外の相続人に限られています。 したがって、例題の相続人における生命保険金や退職手当金の非課税限度額は、500万円に、相続の放棄がなかったものとした場合における相続人の数(=3人)を乗じた金額(=1,500万円)となりますが、母親と長男は相続を放棄しているため、仮にこの2名が生命保険金や退職手当金を受け取ったとしても、非課税計算の対象とはならず、全額がみなし相続財産として相続税の課税対象になります。

(3)法定相続人の数により計算する相続税の基礎控除額

上記(1)の例題の場合、被相続人の配偶者と長男は相続の放棄をしていますが、相続税の基礎控除額や相続税の総額を算出するための相続人は、その放棄はなかったものとした場合の相続人となりますので平成27年1月1日以後に開始する相続に適用される遺産に係る基礎控除額は、次の通りとなります。
(3,000万円+600万円×法定相続人の数 3)= 基礎控除額 4,800万円

4.相続の放棄・限定承認について民法の参考法令

民法 第四章 相続の承認及び放棄 第一節 総則
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。
(限定承認)
第922条  相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。
(共同相続人の限定承認)
第923条  相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。
(限定承認の方式)
第924条 相続人は、限定承認をしようとするときは、第915条第1項の期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。(限定承認をしたときの権利義務)
第925条 相続人が限定承認をしたときは、その被相続人に対して有した権利義務は、消滅しなかったものとみなす。
(限定承認者による管理)
第926条 限定承認者は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理を継続しなければならない。
民法 第四章 相続の承認及び放棄 第三節 相続の放棄
(相続の放棄の方式)
第938条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
(相続の放棄の効力)
第939条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
(相続の放棄をした者による管理)
第940条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

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