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2016.05.17

相続税の申告・遺言の有無と遺言控除案の行方について

相続税の基礎控除額の引下げによる増税の最中に、昨年浮上してきた相続税を減税する遺言控除は、相続税の基礎控除に上乗せして一定額を控除する新たな控除制度の創設案でした。その遺言控除は、相続について遺言に基づいた遺産分割を促進し遺産分割をめぐる紛争を抑止することや介護による貢献に見合った遺産相続を促進することを目的に「自民党内の家族の絆を守る特命委員会」が、亡くなった被相続人の遺言に基づいて相続がされた場合に有効な遺言による相続を条件として一定額を相続税の基礎控除額に上乗せして控除するという相続税の減税案です。早ければ平成29年度税制改正での実施を目指すと報じられている遺言控除ですが、賛否両論があり今後も注視していかなければなりません。 相続税の申告を依頼された場合には、依頼者に民法の相続制度について説明して理解を得て業務を進めていきます。相続財産の分割などの相続に関する手続や申告業務は、遺言の有無によって大きく異なるため、相続が開始した場合には、まず遺言があるかどうかや遺言書があったときは、それが適法かつ有効なものかどうかを確認します。

1.一般的な普通方式の遺言の3種類について

民法に規定する遺言の方式には、一般的な普通方式である3種類と特別方式である4種類がありますが、これ以外の方式の遺言は認められていませんので注意が必要です。民法の条文確認は、遺言の種類と方法を御覧下さいませ。
一般的な普通方式の遺言である自筆証書遺言、公正証書遺言及び秘密証書遺言の3種類は以下の通りです。
yuigon

(1)自筆証書遺言
① 自筆証書遺言は、その全文と日付及び氏名を遺言者が自筆して遺言書に印を押す方式をいいます。全文を自筆することが必要であり、代筆、タイプライター、録音テープなどによるものは遺言としての効力は認められていませんので注意が必要です。
② 複数の遺言があった場合に何れの遺言を有効とするかを判定するための日付、氏名、実印である必要はありませんが捺印のいずれを欠いても、その遺言は無効となります。
氏名については、氏または名だけの自筆であっても遺言者が特定されれば、その有効性は認められていますが、遺言の確実を期するためには氏及び名を記載する方がよいといえます。
③ 自筆証書中の加除やその他の変更要件については、極めて厳格で遺言者が変更した場所を指示して、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、その変更の場所に印を押さなければ効力がありませんので注意して下さい。

(2)公正証書遺言
公正証書遺言は、公証人によって公正証書として作成してもらい更に公証人役場に保管される方式の遺言をいいます。例えば、遺言者の自宅や入院先の病室など公証人役場以外の場所で作成してもらうこともできますので便利です。
公正証書遺言作成の要件は、次のとおりです。
① 2人以上の有資格の証人が立合うこと。
この場合の有資格の証人とは、「(ⅰ)未成年者、(ⅱ)禁治産者、準禁治産者、(ⅲ)推定相続人、受遺者及びその配偶者並びに直系血族、(ⅳ)公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び雇人」以外の者をいいます。
② 遺言者が、遺言の趣旨を公証人に口頭で述べること。
したがって、文書の朗読による口頭の陳述は認められますが、文書を単に公証人に渡すだけではいけないことになります。
③ 公証人が遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせること。
④ 遺言者及び公証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。但し、遺言者が署名することができない場合には、公証人がその事由を付記して署名に代えることができます。
⑤ 最後に公証人が、その証書を①から⑤の方式に従って作成したものである旨を付記してこれに署名し、印を押すこと。

(3)秘密証書遺言
秘密証書遺言は、遺言の内容を秘密にするため封をしますが、その遺言の存在を明確にするため公証人に提出しておく方式の遺言をすることもできます。
秘密証書遺言作成の具体的な手順は次の通りです。
① 遺言者が遺言証書を作成し、これに署名し、印を押すこと。
遺言証書は自筆である必要はなく、代筆やタイプライターその他点字機の使用も認められますが、署名については必ず自筆が要件とされています。しかし、加除変更については自筆証書遺言の場合と同じ方式でしなければなりませんので注意が必要です。
② 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いたのと同じ印章で封印すること。
③ 遺言者が公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨とその筆者の氏名、住所を申述すること。
証人欠格は、公正証書遺言の場合と同じです。筆者の氏名、住所の申述は、後日、遺言内容に疑義が生じた場合の便宜のために行います。
④ 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
以上の要件を満たさないと秘密証書遺言としては無効となります。それが自筆証書遺言の方式を具備するものであれば、自筆証書遺言としての効力が認められます。
例えば、遺言証書の印と異なる印章で封印すると、秘密証書遺言としては無効となりますが、遺言者が、証書の全文を自筆し、日付も記載されているときは、自筆証書遺言として有効になります。

2.特別方式の遺言の4種類について

特別方式の遺言とは、普通方式による遺言が困難又は不可能な場合に認められる方式です。具体的には、①死亡危急者の遺言、②伝染病隔離者の遺言、③在船者の遺言、④船舶遭難者の4種類の遺言が認められています。依って、特別方式の遺言は、遺言者が普通方式による遺言ができるようになった時から6ヶ月間生存するとその効力が失われることになっています。

① 死亡危急者の遺言について

疾病その他の事由で危篤に陥った者が遺言をしようとするときは、証人3人以上の立会いのうえ、遺言の趣旨を口述し、証人の1人が筆記することにより行われます。
その筆記者は、遺言者と他の証人にその内容を読み聞かせ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、押印しなければなりません。
この遺言は、遺言のあった日から20日以内に、証人の1人または利害関係人から家庭裁判所に請求し、その確認を得て有効になります。

② 伝染病隔離者の遺言について

伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所に在る者は、警察官1人と証人1人以上の立会いのうえ、遺言書を作ることができます。
伝染病患者でなくても、その場所からの外出を禁じられている者は、この方式による遺言ができます。伝染病以外の理由で行政処分が行われた場合(例えば刑務所内にある者)も同様であると解されています。

③ 在船者の遺言について

船舶中に在る者は、船長または事務員1人及び証人2人以上の立会いのうえ、遺言書を作ることができます。

④ 船舶遭難者の遺言について

船舶が遭難した場合に、その船舶中にあって危篤に陥った者は、証人2人以上の立会いをもって、口頭で遺言をすることができます。しかし、この遺言は、証人が遺言の趣旨を筆記し、これに署名、押印し、かつ、証書の1人または利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求して確認を得なければ効力を生じません。死亡の危急と船舶の遭難が重なった場合であるため、要件が緩和されています。

3.遺言書の保管と遺言の執行について

公正証書遺言については、原本を公証人が150年保管管理しており、遺言書が破棄・隠匿された場合でも公証人役場で謄本を入手することができます。全国のすべての公正証書遺言がオンラインで一元管理されており、遺言者の死亡後であれば、全国いずれの公証人役場でもその有無が確認できるようになっています。
公正証書遺言による遺言書以外の遺言書の保管については、特に規定はなく、遺言者自らの責任で行う必要があります。遺言者が死亡したならば、公正証書遺言による遺言書以外の遺言書については、その遺言書の保管者又は発見者は、相続の開始を知った後、遅滞なくこれを家庭裁判所に提出して、その検認を受けなければなりません。自筆証書遺言については、封印のある遺言書を家庭裁判所以外の場所で開封をした場合や検認を怠った場合には、5万円以下の過料に処することとされています。
この家庭裁判所の検認は、証拠保全手続ですから、改変のおそれがなく形式の確実な公正証書遺言では検認を必要としません。秘密証書遺言のように封印のある遺言書の検認には、開封が必要であることから、家庭裁判所において相続人またはその代理人の立会いのもとで開封してもらうことになります。
遺言の効力が発生すると、その内容のいかんによっては、遺言内容を実現する者を必要とする場合があります。これを遺言執行者といい、遺言によって指定されまたは遺言で指定を委託された第三者によって指定されることになります。また、利害関係人の請求によって家庭裁判所で選任される場合もあります。
遺言執行者は、財産目録の作成、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有することになります。

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