2016.08.22

気になにませんか?相続税の調査の選定基準(新)2016年

相続税も申告されたものがすべて調査されるわけではありませんが、事前の調査の中から不審があれば実地の調査が行われます。
平成27年1月1日からの相続税の課税ベース拡大により、相続税の申告件数が増加傾向にあるといいます。これを踏まえ国税当局では、平成29事務年度(H29.7~H30.6)以降に実地調査の選定基準等を含め審理事務を見直すための検討作業に着手しているそうです。いままで以上に調査の対象事案を厳選することによって、より効率的・重点的な調査が行われることになるようです。

1.平成27事務年度に新基準での調査選定を試行済み

相続税の課税ベース拡大で申告件数が増加する一方、国税当局全体の職員、ひいては資産課税部門の職員数は横ばいのようです。
国税当局は、相続税の申告審理事務量の増加の抑制、及び調査の対象事案を“厳選”するため、調査対象となるかを判断する選定基準の改正を含め審理事務を見直すこととしています。
この見直しに先立ち、平成27事務年度(H27.7~H28.6)において、試行的に新たな調査選定基準(新基準)に該当する調査対象事案の選定が行われました。

2.全国17署での試行を指示し実施済み

施行された新基準に該当する調査対象事案の選定は、原則、資産課税部門のなかで1部、2部など複数の部門がある中規模以上の税務署で行われました。国税庁は全国17署での実施を各国税局等に指示し、具体的に実施する署は各局等が選びました。東京国税局では3税務署、大阪・名古屋・関東信越国税局では、それぞれ2税務署、それ以外の局等では各1税務署ですが、国税局等によっては指示された数以上の署で新基準の施行を実施したこともあり得るようです。

3.新基準による判定結果を4つに区分

新基準に基づく調査選定の試行において、その新たな基準に沿って事案を判定した結果を「実調」、「事後」、「非課税」、「省略」の4つに区分するそうです。以下の(2)~(4)の3つについては新基準に該当しないことになります。
この新基準については、いわゆる超富裕層PT(一定の富裕層に対し特別な管理体制を敷くプロジェクトチーム)でいう“形式基準”や“実質基準”のような保有する資産の見込額などといった、一定の指標が設けられていることが考えられます。

(1)実調(新基準に該当)

「実調」に区分された事案は新基準に該当するものとして、実地調査又は机上調査のいずれかに着手する流れとなります。

(2)事後(納税者に接触)

「事後」は納税者へ何らかの形で接触する流れとなります。

(3)非課税(税額なし)

「非課税」は税額なしとなる区分です。

(4)省略(調査なし)

「省略」は税務調査なしの流れとなります。

4.平成28事務年度には新基準の試行に基づく調査

平成27事務年度に選定した新基準に該当する調査対象事案については、基本的には、平成28事務年度(H28.7~H29.6)において実地調査又は机上調査を実施するそうです。この結果を踏まえて、平成29事務年度“以降”に全国において、新基準の導入が予定されています。具体的な導入時期は未定のようです。また、試行の結果によっては、今回施行された新基準等の内容を変更することなどもあり得るようです。

5.調査の厳選するも必要事案は漏れなく選定

今回の相続税の調査選定基準の見直しは、調査対象事案を“厳選”するためのものです。“厳選”することが、調査対象事案に該当する基準そのものを引き上げるものであれば、その影響としてより大口・悪質事案に調査の重点が置かれ、調査件数が今よりも減少することが考えられます。
しかし、ここでいう“厳選”とは、あくまで調査が必要な事案をより効率的に漏れなく選定するためのもので、必ずしも大口・悪質事案により調査の重点が置かれるということにはならない様です。
税務署では相続発生のずっと前より、被相続人に関する膨大な資料を蓄積しており、それらと申告内容とを照らし合わせたうえで、総合的な確認作業を行うために調査を行います。単に税務署に提出された相続税申告書の内容確認のためだけに、税務調査が行われるというわけではないのです。

2016.08.02

どうなる相続人が家なき子の場合の空き家の譲渡特例と小規模宅地等特例の併用

相続人がいわゆる「家なき子」で相続により生じた空き家を改修して相続税申告期限後に被相続人居住用家屋等を譲渡した場合に、譲渡所得の特別控除を適用する特例が平成28年度税制改正により創設されました。ところで、その空き家に係る譲渡所得の特例と小規模宅地特例の適用関係が気になりませんか?この特例は、平成28年4月1日から平成31年12月31日までの間に譲渡した場合に適用されます。

1.譲渡所得の特例

平成28年度税制改正により創設されました「空き家に係る譲渡所得の3,000万円控除の特例」の適用要件は、次のとおりです。
その対象財産について、被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等としており、相続開始から譲渡の時まで事業、貸付、居住の用に供されていたことがないことを必要としています。

2.小規模宅地の特例との併用について

相続税における小規模宅地等の特例との適用関係については特に排除されておらず、特定居住用宅地等の適用要件を満たす「家なき子」に該当する場合には、措法69の4③二ロにより、特定居住用宅地等の適用対象となり、相続税の申告期限まで被相続人居住用家屋等を所有等すれば本特例を併用できることとなります。

3.小規模宅地特例は申告期限まで所有要件

本特例では、相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋及びその敷地等が対象であることから、相続の場面において、小規模宅地等の特例における被相続人の特定居住用宅地等に該当するか否かが気になるところです。
本特例については、措法35①③等により税法上、小規模宅地等の特例の適用を受けた者を排除する規定は設けられていません。

(1)小規模宅地等の特例における要件とは

小規模宅地等の特例において、特定居住用宅地等として330㎡まで80%の評価減の対象となる宅地等の要件は、次のとおりです。被相続人の配偶者が相続等で取得したもの、あるいは、①相続開始の直前において同居していた親族で、申告期限までに所有・居住していること、②配偶者も同居親族もいない場合、相続開始前3年以内に持家に居住したことがない親族が申告期限まで所有していること、③被相続人と生計を一にしていた親族で、申告期限までに所有・居住していることのいずれかの要件に該当する親族が取得したものとされています(措法69の4③二)。

(2)特例の併用に関する注意点

本特例では、相続開始から譲渡の時まで事業、貸付、居住の用に供されたことがないという要件がありますので、小規模宅地等の特例の適用対象と重なるのは、居住要件を求めない前述②のいわゆる“家なき子”が相続等をする場合の特定居住用宅地等に該当するケースに限られそうです(措法69の4③二ロ)。この場合には、相続税の申告期限まで所有を続ける必要がある点に留意してください。

4.相続と譲渡のまとめ

したがって、相続の場面では、小規模宅地等の特例の“家なき子”が相続開始から相続税の申告期限まで被相続人の居住用宅地等を所有するなど要件を満たせば、80%評価減の適用対象となります。また、譲渡の場面では、その家なき子が相続税の申告期限後、耐震改修又は除却等をした空き家に係る敷地等を一定期間内に譲渡する場合も、空き家に係る譲渡所得の3,000万円控除の特例についても適用を受けることが可能ということになります。

2016.07.12

なぜ死亡退職金・弔慰金に相続税が課税されるのか

本来の相続財産ではない死亡退職金・弔慰金に、なぜ相続税が課税されるのか疑問をお持ちの方に、3つのポイントを説明しています。
1, 被相続人の死亡により取得する退職手当金等は、被相続人の雇用主から相続人等に直接支給されるものであるから本来の取得財産に該当しないこととなります。
2. しかし、被相続人が死亡の直前に退職手当金等の支給を受けている場合には、その退職手当金等は何らかの形で被相続人の遺産に含まれて、相続税の課税対象となり、相続税の課税を受けることとなります。
3. そこで相続税法では、被相続人の死亡による退職手当金等はその取得者にとって本来の取得財産と同様の財産利益をもたらし、また生前退職の退職金の相続財産への残留に対する相続税課税との均衡を図るため相続又は遺贈により取得したものとみなして相続税の課税財産としています。

1.相続財産とみなされる退職手当金等とは

被相続人の死亡により相続人その他の者が被相続人に支給されるべきであった退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与で、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものの支給を受けた場合には、その給与の支給を受けた者について、その支給を受けた給与の額を、その者が相続人であるときは相続により取得したものとみなし、相続人以外の者であるときは遺贈により取得したものとみなします。
なお、ここで「3年以内に支給が確定したもの」とは、支給すべき金額が確定したことをいいます。

2.相続税が課税される死亡退職金の見分け方

(1)相続財産とみなされる退職金とは

退職手当金等とは、被相続人に支給されるべきであった退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与のことをいいます。退職手当金等は、その名義のいかんにかかわらず実質上被相続人の退職手当金等として支給される金品をいい、金銭だけではなく、現物で支給されるものも含まれます。

(2)課税されるか判定するちょっとしたコツ

被相続人の死亡により相続人その他の者が受ける金品が退職手当金等に該当するかどうかは、その金品が退職給与規程その他これに準ずるものの定めに基づいて受ける場合においてはこれにより、その他の場合においては、その被相続人の地位、功労等を考慮し、その被相続人の雇用主等が営む事業と類似する事業におけるその被相続人と同様な地位にある者が受け、又は受けると認められる額等を勘案して判定することとされています。

3.どこまでが退職手当金等に該当するのか

(1)退職手当金等に該当するものとは

企業は、従業員等が退職した場合には就業規則や退職給与規程により従業員等に対して退職金を支給しますが、その資金を社内資金により調達するほか、生命保険会社や信託銀行などに生命保険契約や信託契約により資金を積み立て、従業員の退職金資金を準備することがあります。

(2)生命保険契約などにより支給される場合

そして、被相続人の死亡退職に対して社内資金のほか生命保険会社や信託銀行から退職手当金が支給されますが、この生命保険契約など一定の契約により支給される退職手当金等は相続又は遺贈により取得した退職手当金等とみなすこととされています。

2016.06.28

相続税における生命保険金の取扱い注意点

相続税においては生命保険金を取得した場合に、その生命保険金を取得した者が相続を放棄した者及び相続権を失った者を含まない相続人であるときは相続により取得したものとみなし、その者が相続人以外の者であるときは遺贈により取得したものとみなして相続税の課税財産としています。
被相続人の死亡により相続人その他の者が取得した生命保険契約等の保険金は、被相続人の死亡による生命保険契約等の保険事故により保険金受取人がその契約に基づき原始的に取得するものであり、民法の規定による相続又は遺贈により取得するものではなく、生命保険契約の効力の発生により取得するものです。したがって、この保険金は、被相続人の財産を構成するものではありませんが、この保険金受取人については、被相続人の死亡を原因として、その保険金額に相当する経済的利益を取得することとなるので、相続税法においては被相続人の負担した保険料に対応する保険金について税負担の公平を図るために相続又は遺贈により取得したものとみなして課税財産としています。
本来の相続財産ではない死亡保険金を相続財産とみなして課税価格に算入する際の生命保険金の非課税限度額は、死亡退職金と同じくそれぞれ500万円×法定相続人の数で計算します。
相続人一人一人に課税される金額は、こちらに掲載しています。

1.相続又は遺贈により取得したものとみなされる生命保険金等

被相続人(遺贈者を含みます。)の死亡により相続人その他の者が取得した生命保険契約(これに類する共済に係る契約を含みます。)の保険金(共済を含みます。)又は偶然な自己に基因する死亡に伴い支払われる損害保険契約(これに類する共済に係る契約を含みます。)の保険金を取得した場合において、被相続人がその保険料(共済掛金を含みます。)の全部又は一部を負担しているときは、その保険金受取人(共済金受取人を含みます。)について、その取得した保険金額に被相続人が負担した保険料の金額が被相続人の死亡の時までに払い込まれた保険料の金額のうちに占める割合を乗じて計算した金額を、その保険金受取人が相続人である場合には相続により取得したものとみなし、相続人以外の者であるときは、遺贈により取得したものとみなすこととされています。相続税の課税対象額を算式に表すと次のようになります。
取得保険金額×(被相続人が負担した保険料の金額÷被相続人の死亡時までに払い込まれた保険料の全額)
なお、相続税基本通達3-7によれば相続又は遺贈により取得したものとみなされる生命保険金等は、被保険者(被共済者を含みます。)の死亡(死亡の直接の基因となった傷害を含みます。)を保険事故(共済事故を含みます。)として支払われるいわゆる死亡保険金(死亡共済金を含みます。)に限られます。被保険者の傷害(死亡の直接の基因となった傷害を除きます。)、疾病その他これらに類するもので死亡を伴わないものを保険事故として支払われる保険金(共済金を含みます。)又は給付金は、当該被保険者の死亡後に支払われたものであっても、これに含まれないのであるから留意することとされています。
さらに、相続税基本通達3-7注意書きによれば、被保険者の傷害(死亡の直接の基因となった傷害を除きます。)、疾病その他これらに類するもので死亡を伴わないものを保険事故として支払われる次に掲げる(1)(2)の保険金又は給付金は、その被保険者の死亡後に支払われた場合には、被保険者たる被相続人の本来の財産として相続税の課税財産となり、保険金の非課税の対象外としてその全額が課税対象となります。
(1)被保険者の傷害(死亡の直接の基因となった傷害を除きます。次の(2)において同じ。)又は疾病を保険事故とする旨の特約のある生命保険契約において、これらの保険事故が発生して支払を受ける保険金又は給付金
(2)傷害を保険事故として支払われる後遺傷害保険金又は医療保険金
すなわち、相続又は遺贈により取得したものとみなされる保険金は、保険契約に基づいて保険事故の発生により保険金受取人が原始的に取得した保険金請求権を被相続人から相続又は遺贈により取得したものとみなします。

2.保険金受取人が取得した保険金で課税関係が生じない場合

相続税基本通達3-38によれば、保険金受取人の取得した保険金の額のうち、生命保険契約に関する権利に対する課税の規定により保険金受取人が生命保険契約に関する権利を相続又は遺贈により取得したものとみなされた部分に対応する金額又は自己の負担した保険料の金額に対応する部分の金額については、相続又は遺贈により取得する財産とはならないで、所得税の一時所得又は雑所得として課税対象となります。

3.生命保険金等の受取人についての注意点

相続税基本通達3-11によれば、相続又は遺贈により取得したものとみなされる生命保険金等における「保険金受取人」とは、その保険契約に係る保険約款等の規定に基づいて保険事故の発生により保険金を受け取る権利を有する者(保険契約上の保険金受取人)をいうものとするとしています。指定受取人がないときには、商法、旧簡易生命保険法、保険約款等の定めにより判断すべきものとされています。例えば、被相続人が保険金受取人となっている場合において、被相続人の死亡を保険事故とするものについて指定受取人がいないときには、団体定期普通保険約款では被保険者の配偶者、子、父母、祖父母、兄弟姉妹の順位により保険金受取人となり、また旧簡易生命保険法では被保険者の遺族が保険金受取人とされていました。
保険金受取人について、保険証券に記載されている保険金受取人と実際に保険金を取得した者が異なる場合があります。このため相続税法において「保険金受取人」とは保険証券に記載されている形式的な名義人をいうのか、それとも名義人にこだわらないで実質的な受取人をいうのかが問題となります。
相続税基本通達3-12によれば、保険契約上の保険金受取人以外の者が現実に保険金を取得している場合において、保険金受取人の変更の手続がなされていなかったことにつきやむを得ない事情があると認められる場合など、現実に保険金を取得した者がその保険金を取得することについて相当な理由があると認められるときは、上記にかかわらず、その者を相続若しくは遺贈により取得したものとみなす場合の保険金受取人とするものとしています。

4.生命保険金等とともに支払を受ける剰余金等

相続税基本通達3-8によれば、相続又は遺贈により取得したものとみなされる生命保険金等には、保険契約に基づき分配を受ける剰余金、割戻しを受ける割戻金及び払戻しを受ける前納保険料の額で、当該保険契約に基づき保険金とともに当該保険契約に係る保険金受取人(共済金受取人を含みます。)が取得するものを含むものとして取り扱っています。

5.契約者貸付金等がある場合の生命保険金等

相続税基本通達3-9によれば、保険契約に基づき保険金が支払われる場合において、当該保険契約の契約者に対する貸付金若しくは保険料の振替貸付けに係る貸付金又は未払込保険料の額(いずれも元利合計金額とします。)があるため、当該保険金の額から当該契約者貸付金等の額が控除されるときの相続又は遺贈のみなし規定の適用については、次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次によるとされています。

(1)被相続人が保険契約者である場合

保険金受取人は、当該契約者貸付金等の額を控除した金額に相当する保険金を取得したものとし、当該控除に係る契約者貸付金等の額に相当する保険金及び当該控除に係る契約者貸付金等の額に相当する債務はいずれもなかったものとします。

(2)被相続人以外の者が保険契約者である場合

保険金受取人は、当該契約者貸付金等の額を控除した金額に相当する保険金を取得したものとし、当該控除に係る契約者貸付金等の額に相当する部分については、保険契約者が当該相当する部分の保険金を取得したものとします。

2016.06.17

相続税における葬式費用の債務控除

相続税では被相続人に係る葬式費用についても被相続人の債務のほかに債務控除を適用します。債務控除の適用対象者は、下記1の通り、相続又は遺贈により財産を取得した者が無制限納税義務者で相続人と包括受遺者に限られます。
葬式費用は本来被相続人の債務ではないですが、相続の開始により必然的に生ずるものであり相続財産から支弁されるものともいえるところから、相続税法においては、被相続人の債務と同様に債務控除の対象とし、控除の対象となる葬式費用は、被相続人が死亡してから納骨するまでの費用のうち下記2(1)に掲げる葬式費用となります。

1.葬式費用について債務控除の適用対象者

相続又は遺贈により財産を取得した者が、いわゆる無制限納税義務者である場合には、被相続人の債務のほかに被相続人に係る葬式費用についても債務控除を適用することとされています。無制限納税義務者が相続又は遺贈により取得した財産のすべてについて相続税の納税義務を負うのに対して、制限納税義務者は相続又は遺贈により取得した財産のうち法施行地にあるものだけについて相続税の納税義務を負うこととなっているため、制限納税義務者の債務控除は、相続税が課税される財産によって担保される債務に限られ、葬式費用の控除は制限納税義務者については認められていません。さらに債務控除の適用対象者は、相続人と包括受遺者に限られています。
したがって相続放棄をした者やもともと相続権のなかった者については、債務控除の適用はありません。もっとも、相続放棄とは、財産と債務の承継をしないという法的手続であり、また、相続権のない者が被相続人の債務を承継することはあり得ないことから、これらの者に債務控除の規定を適用しないこととしたのは、当然のことであります。
例えば、内縁の妻は相続権者でないことは明らかであり、はじめから債務控除の適用はないことになります。

2.債務控除の対象となる葬式費用

債務控除の対象となる葬式費用について、相続税法は何が債務控除の対象となる葬式費用に該当するのかを何ら規定していませんが、一般的に葬式費用は死者の追悼儀式に要する費用及び埋葬等の行為に要する費用(死体の検案に要する費用、死亡届に要する費用、死体の運搬に要する費用及び火葬に要する費用等)であるといわれています。しかしながら、葬式は宗教やその地域の慣習によりその様式が異なりますから、結局のところ個々の事案について社会通念に即して判断せざるを得ないことになります。

(1)課税実務における葬式費用の取扱い

相続税法基本通達13-4により、相続税の課税実務においては葬式費用として控除する費用の範囲については次の通り取扱います。
①葬式若しくは葬送に際し、又はこれらの前において、埋葬、火葬、納骨または遺がい若しくは遺骨の回送その他に要した費用(仮葬式と本葬式とを行うもにあっては、その両方の費用)
②葬式に際して施与した金品で、被相続人の職業、財産その他の事情に照らして相当程度と認められるものに要した費用
③葬式の前後に生じた出費で通常葬式に伴うもの
④死体の捜索または死体若しくは遺骨の運搬に要した費用

(2)債務控除の対象とならない葬式費用

相続税法基本通達13-5により、仏具代、香典返戻費用や初七日、四十九日法要費用など
法会に要する費用など次に掲げる費用は葬式費用としては取り扱わないとしています。
①香典返礼費用
②墓碑及び墓地の買入費並びに墓地の借入料
③法会に要する費用
④医学上又は裁判上の特別の処置に要した費用

3.債務控除の対象となる葬式費用の負担者について

これらの葬式費用を誰が負担すべきかについてですが、そもそも追悼儀式としての葬式を行うか否か、それを行うにしても、その規模をどの程度にし、どれだけの費用をかけるかについては、葬儀の主宰者(もっぱら喪主である追悼儀式の主宰者)がその責任において決定し、実施するものということができますから、葬儀の主宰者がその費用を負担すべきものと考えられます。他方、最高裁平元.7.18第三小法定判決によれば、祭祀の承継者(遺骸または遺骨の所有権は民法897条に従って慣習上、祖先の祭祀を主宰すべき者)に帰属するものということができますから、その管理、処分に要する費用も祭祀承継者が負担すべきものといえます。
そうすると、最高裁平24.3.29最高裁判決によれば、追悼儀式に要する費用については、自己の責任と計算において、追悼儀式を準備し、手配等して挙行した者である葬儀の主宰者が負担し、一方、埋葬等の行為に要する費用については亡くなった者の祭祀承継者が負担すべきものと考えられます。
ところで、相続税における債務控除は、被相続人の債務及び葬式費用の金額を相続または遺贈により取得した財産の価額から控除するものですが、このうち葬式費用は、もともと被相続人の債務ではありませんから、相続または遺贈により財産を取得した者が本来の相続または遺贈との関連において負担する性質のものではなく、喪主をはじめとする被相続人の遺族や関係者が負担するのが社会通念であるといえます。
実際問題として、葬式費用を相続を放棄した者や相続権を失った者あるいは相続権のない内縁の関係にある者が遺族の一人として、負担することがあります。そして、相続税法13条1項は、その括弧書きにおいて、債務控除することができる者を
①相続により財産を取得した者、
②相続人と同一の権利義務を有する包括遺贈(民法990)により財産を取得した者及び
③被相続人から相続人に対する遺贈により財産を取得した者に限定しています。
そうすると、相続を放棄した者、相続権を失った者及び相続権のない内縁関係の者は、いずれも、上記①ないし③の者に該当しませんから、相続税法第13条の規定の適用はないことになります。
しかし、このうち相続を放棄した者及び相続権を失った者については、もともと相続人であった者であり、これらの者が祭祀承継者であるケースも考えられますから、相続税法基本通達13-1により、課税実務においては相続を放棄した者及び相続権を失った者が現実に被相続人の葬式費用を負担した場合には、その負担額をその者の遺贈によって取得した財産の価額から債務控除することを認める取扱いをしています。
ところで、内縁は、社会一般には夫婦としての実質をもちながらも、婚姻の届出を欠いているために法律上の夫婦と認められない関係をいい、同居、協力及び扶助の義務(民法752)や婚姻費用の分担(民法760)、日常の家事に関する債務の連帯責任(民法761)などの民法の婚姻に関する諸規定が類推適用され、また、厚生年金保険法や国家公務員災害補償法などの特別法上も、内縁関係の者に社会保険や社会保障の受給資格を認める扱いがされています。
その一方で、配偶者相続権、姻族関係、成年擬制などの画一的に処理されるべき法律効果については、内縁関係について認められておらず、相続税の課税上も、現在のところ、内縁関係にある者が葬式費用を負担したとしても、その負担額をその者の遺贈によって取得した財産の価額から債務控除することを認める取扱いはされていません。

2016.05.26

相続税の債務控除のしくみ

相続税の債務控除の対象となる債務は、被相続人の債務を相続人が引き継いだ場合に、原則として相続の際に現に存し、かつ、確実と認められるものに限り、相続税の課税価格の計算上、相続により取得した財産の価額から控除することができる制度です。
相続税は、正味財産に課税されますので、相続開始時に現に存する被相続人の債務で、確実なものについては、原則としてその債務額を相続により取得した財産の額から控除することができます。
債務控除の制度が適用される人は相続人と包括受遺者に限定されているため、相続を放棄した者は相続人には含まれませんので、相続を放棄した者が遺贈を受けていても、相続を放棄した者が負担した債務の額を遺贈を受けた財産の価額から控除することはできませんので注意が必要です。

1.債務が確実であるという債務控除の要件

相続税の債務控除の対象となる債務は、その債務が確実である必要がありますが、必ずしも書面の証拠があることを必要とするものではなく、債務の金額が確定していなくても、その債務の存在が確実と認められるものについては、相続開始当時の現況により確実と認められる範囲の金額については、債務として控除することができます。しかし実際問題として書面等がまったく存在しない場合に債務の確実性とその債務の額を立証することは、相当に困難を極めますので具体的な証拠資料を用意していただくことが有効です。
債務控除をすることができる債務の具体的な例としては、借入金債務、未払いの公共料金や医療費、預かり保証金などがあります。一方、被相続人の債務であっても、墓所霊びょう等の非課税財産の取得や維持または管理のために生じた債務は控除することができませんので注意が必要です。
また、被相続人の保証債務については、原則として債務控除の対象とはなりませんが、保証債務のうち、主たる債務者が弁済不能の状態にあるため、保証債務者がその債務を履行しなければならない場合で、かつ、主たる債務者に求償して返還を受ける見込みがない場合には、主たる債務者が弁済不能の部分の金額は、その保証債務者の債務として控除することができます。連帯債務については、連帯債務者のうちで債務控除を受けようとする者の負担すべき金額が明らかとなっている場合には、その負担金額を控除することができます。

2.債務控除を適用できる者の要件

債務控除の規定が適用される者は、相続人と包括受遺者に限定されており、相続放棄した者は、相続人には含まれませんから、相続放棄した者及び相続権のない者については、相続税法13条に規定する債務控除はできないとになります。
したがって、相続を放棄した者は、遺贈を受けた財産について相続税の課税対象となる場合であっても、医療費などの被相続人の債務の負担額を遺贈を受けた財産の価額から控除することはできませんので注意が必要です。。
ただし、相続放棄した者及び相続権を失った者が現実に被相続人の葬式費用を負担した場合においては、その負担額は、その者の遺贈によって取得した財産の価額から債務控除することができます。

3.控除不足となる場合の債務控除の取扱い

債務控除で引ききれないマイナス分が発生した場合に債務を負担していない他の共同相続人の課税価格から差し引くこと及び加算された贈与財産の価額から差し引くことは、いずれもできませんので注意が必要です。
(1)相続税法13条1項の規定により、相続または遺贈により取得した財産に係る相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から、被相続人の債務等の金額のうち、当該財産を取得した者の負担に属する部分の金額を控除した金額によることとされています。この規定でいう「その者の負担に属する部分の金額」とは、相続税法基本通達13-3によれば、相続または遺贈によって財産を取得した者が実際に負担する金額をいうものと解されます。これらの者の実際に負担する金額が確定していないときには、民法900条から902条までの規定による相続分または包括遺贈の割合に応じて負担する金額をいうものとして取り扱うこととされています。これは、未分割の財産については、相続税法上、民法の規定による相続分または包括遺贈の割合に従って財産を取得したものとして相続税の課税価格を計算することとされており、債務等についてこれと同様の計算方法を認めたものと解されます。
共同相続人または包括受遺者がその者の相続分または包括遺贈の割合に応じて被相続人の債務を負担することとした場合の各金額が、共同相続人または包括受遺者が、相続または遺贈により取得した財産の価額を超えることとなる場合に、その超える部分の金額を、他の共同相続人または包括受遺者の相続税の課税価格の計算上、控除することとして申告があったときは、これを認めることとして取り扱われています。
実際に負担する金額が確定していない段階においては、債務等の超過分を相続税の課税価格の計算上切り捨ててしまうとすれば、課税の公平の観点から相当でないと考えられることから、他の共同相続人の相続税の課税価格の計算においても控除することを認めたものと解されています。
(2)平成22年3月15日の国税不服審判所裁決によれば、上記通達13-3の場合において、共同相続人の中に債務等超過分を控除することが可能な者が複数いるときに、それぞれの者が任意に債務等超過分を自己の相続税の課税価格の計算上控除して申告できることまで許すとすると債務等超過分が重複して控除されることになり、この取扱いはそのような重複控除までをも認める趣旨のものとは解されませんので共同相続人の中に債務等超過分を控除することが可能な者が複数いる場合には、これらの者の間において債務等超過分をどのように配分するかについての合意がなされていることが前提になっているものと解されています。これはあくまでも、相続財産の分割や債務負担の合意がされておらず、これらが最終的に決定されるまでの過渡的な状況で発生した債務等超過分を相続税の課税価格の計算上切り捨ててしまうことを避ける趣旨のものであって、相続財産の分割や債務負担の合意が確定した場合に、相続財産の価額を超えて債務を負担することとなった者の債務超過分を、他の共同相続人または包括受遺者の課税価格から控除することを認める趣旨のものではなく、その旨を定めた法令の規定はありませんので、仮に、共同相続人や包括受遺者の中に、相続財産の価額を超えて債務を負担することとなった者があったとしても、その者の債務超過分を、他の共同相続人や包括受遺者の相続税の課税価格を計算するに当たって控除することはできませんので注意が必要です。
(3)相続税法13条により、相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から、被相続人の公租公課を含む債務で相続開始の際現に存するもの及び被相続人に係る葬式費用の金額のうち、その者の負担に属する部分の金額を控除した金額によるとされています。
(4)相続税法19条により、相続開始前3年以内に贈与があった場合の相続税額について、当該贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなして、遺産に係る基礎控除、相続税の総額、各相続人等の相続税額及び相続税額の2割加算の各規定を適用して算出した金額をもって、その納付すべき相続税額とするとされていますので、まずは、贈与加算する前の相続財産の価額から被相続人の債務を控除した金額を、相続税の課税価格に算入すべき価額とし、これに生前贈与財産の価額を加算したものを、相続税の課税価格とみなして相続税額を算定することになります。
(5)債務控除は上記(3)(4)により、、相続開始前3年以内に贈与により取得した財産の価額を加算する前の課税価格から行うことになりますので、仮に、相続人が負担することとなった債務の額が、相続により取得した財産の価額を超えることとなったとしても、結果として、その超える部分の金額を他の共同相続人の相続税の課税価格の計算上、控除することはできないことになります。

4.債務控除の参考法令一部抜粋

相続税法第13条(債務控除)

相続又は遺贈(包括遺贈及び被相続人からの相続人に対する遺贈に限る。以下この条において同じ。)により財産を取得した者が第一条の三第一項第一号又は第二号の規定に該当する者である場合においては、当該相続又は遺贈により取得した財産については、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による。
一 被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含む。)
二 被相続人に係る葬式費用
2 相続又は遺贈により財産を取得した者が第一条の三第一項第三号の規定に該当する者である場合においては、当該相続又は遺贈により取得した財産でこの法律の施行地にあるものについては、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から被相続人の債務で次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による。
一 その財産に係る公租公課
二 その財産を目的とする留置権、特別の先取特権、質権又は抵当権で担保される債務
三 前二号に掲げる債務を除くほか、その財産の取得、維持又は管理のために生じた債務四 その財産に関する贈与の義務
五 前各号に掲げる債務を除くほか、被相続人が死亡の際この法律の施行地に営業所又は事業所を有していた場合においては、当該営業所又は事業所に係る営業上又は事業上の債務
3 前条第一項第二号又は第三号に掲げる財産の取得、維持又は管理のために生じた債務の金額は、前二項の規定による控除金額に算入しない。ただし、同条第二項の規定により同号に掲げる財産の価額を課税価格に算入した場合においては、この限りでない。

相続税法第14条

前条の規定によりその金額を控除すべき債務は、確実と認められるものに限る。
2 前条の規定によりその金額を控除すべき公租公課の金額は、被相続人の死亡の際債務の確定しているものの金額のほか、被相続人に係る所得税、相続税、贈与税、地価税、再評価税、登録免許税、自動車重量税、消費税、酒税、たばこ税、揮発油税、地方揮発油税、石油ガス税、航空機燃料税、石油石炭税及び印紙税その他の公租公課の額で政令で定めるものを含むものとする。

相続税法基本通達3-1(「相続を放棄した者」の意義)

相続税法第3条第1項に規定する「相続を放棄した者」とは、民法第915条((相続の承認又は放棄をすべき期間))から第917条までに規定する期間内に同法第938条((相続の放棄の方式))の規定により家庭裁判所に申述して相続の放棄をした者(同法第919条第2項((相続の承認及び放棄の撤回及び取消し))の規定により放棄の取消しをした者を除く。)だけをいうのであって、正式に放棄の手続をとらないで事実上相続により財産を取得しなかったにとどまる者はこれに含まれないのであるから留意する。

相続税法基本通達13-1(相続を放棄した者等の債務控除)

相続を放棄した者及び相続権を失った者については、相続税法第13条の規定の適用はないのであるが、その者が現実に被相続人の葬式費用を負担した場合においては、当該負担額は、その者の遺贈によって取得した財産の価額から債務控除しても差し支えないものとする。

相続税法基本通達14-1(確実な債務)

債務が確実であるかどうかについては、必ずしも書面の証拠があることを必要としないものとする。
なお、債務の金額が確定していなくても当該債務の存在が確実と認められるものについては、相続開始当時の現況によって確実と認められる範囲の金額だけを控除するものとする。

2016.05.21

相続税の修正申告と更正の請求について

相続税の修正申告と更正の請求は、相続税の申告後に発生した後発的事由などにより行う事後の手続です。相続税の申告期限までに未分割のため民法に規定する相続分又は包括遺贈の割合で申告した後に、相続財産の分割が行われ、その分割に基づき計算した税額と申告した税額とが異なるときは、実際に分割した財産の額に基づいて修正申告又は更正の請求をすることができます。
修正申告は、初めに申告した税額よりも実際の分割に基づく税額が多い場合にする申告です。
更正の請求は、初めに申告した税額よりも実際の分割に基づく税額が少ない場合に、分割のあったことを知った日の翌日から4か月以内にすることができる請求です。
上記の特例が適用できるのは、原則として申告期限から3年以内に分割があった場合となります。

1.修正申告と更正の請求

相続税は、所得税や贈与税などと異なり、課税財産の所有者である被相続人の死亡後に相続人等によって申告手続が行われることになるため、当然ですが課税財産の内容等を所有者自身に確認することは不可能です。
その結果、故意かどうかは別問題として申告漏れとなるケースが生ずる場合があります。こうした事態を回避するために、相続財産の調査にご協力いただくことが重要になりますが、実際問題として完全を期すことはなかなか容易ではありません。
仮に、相続税の申告後に行われる税務調査の結果、修正申告や更正処分があった場合の手続や加算税・延滞税の取扱いについても予め納税者の皆様に説明しています。

2.相続に特有の後発的事由と税務手続

相続税の申告後の後発的事由として、例えば、次のような他の税目にはない特有のものがあります。
① 相続税の申告後に未分割遺産が分割されたことによって、当初申告の課税価格又は税額に異動が生じたこと。
② 死後認知、推定相続人の廃除などにより相続人に異動が生じたこと。
③ 遺留分の減殺請求があったため、相続財産の返還又は価額弁償が行われたこと。
④ 遺贈に係る遺言書が発見され、又は遺贈の放棄があったこと。
①から④の事由が生じた場合の事後的な税務手続を説明していますが、納税者の皆様の御理解をいただくとともに、これらの事由が生じたときには直ちに連絡をされたい旨を伝えているところであります。これらの事由に基づく事後の修正申告等についての加算税や延滞税の取扱いについては、お問い合わせ下さい。

3.相続税の更正の請求手続

既に行った相続税の申告について、税額等が過大であった場合に減額更正を求める場合の手続です。
更正の請求手続の対象者は、既に行った申告について、税額等が過大であった者です。

(1)相続税の更正の請求期限

相続税の更正の請求書の提出期限は次の通りです。
①・平成23年12月2日以後に法定申告期限が到来する申告については、法定申告期限から5年以内です。
・後発的理由などにより更正の請求を行う場合には、それらの事実が生じた日の翌日から2か月又は4か月以内となります。
②・平成23年12月1日以前に法定申告期限が到来する申告については、法定申告期限から1年以内です。
・後発的理由などにより更正の請求を行う場合には、それらの事実が生じた日の翌日から2か月又は4か月以内となります。

(2)相続税の更正の請求手続方法

相続税の更正の請求書には、更正の請求の理由の基礎となる事実を証明する書類等の添付書類を必ず添付して提出先に提出してください。

4.相続税の申告後に行われる遺産分割のやり直しの可否

相続の法的意義や遺産分割の効果については既掲載のとおりですが、いったん有効に成立した遺産分割をやり直したいという意向が皆様から示される場合があります。
遺産の分割の効力については、民法第909条において、「遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。」と規定しています。その理由はさまざまですが、民法909条が規定する遺産分割の遡及効からみれば、その遺産分割のやり直しは新たな所有権の移転であり共同相続人の全員の合意があったとしても、相続税の税務への問題は避けられないことになります。
当初の遺産分割について錯誤又は無効となる原因があれば、そもそも有効な遺産分割が成立していないことになり、改めて遺産分割を行うことになります。例えば、共同相続人の一部の者を除外して行った遺産分割などが考えられます。相続人が所在不明であるにもかかわらず、その者の財産管理人を選任しないで行った分割協議や非摘出子の存在を知らずに分割協議を行ったような場合には、当初の分割協議自体が無効であり改めて遺産分割を行う必要があります。このような場合には、そのことによって財産の移転等があっても贈与税等の課税問題は生じないことになります。
実務で問題になりやすいのは、遺産分割の不公平を解消するための再分割である。相続人Aの取得した土地の価額がその後に高騰し、相続人Bが取得した有価証券の価額が下落したという場合に、当事者間の利害を調整するために遺産分割をやり直すといったケースです。このような利益調整的な再分割を行った場合には、贈与税等の課税問題が生じることになります。また、再分割を行ったために相続財産が減少したとしても、更正の請求ができないことはいうまでもありませんので注意が必要です。
なお、相続財産の一部を除外又は脱漏して行った遺産分割は、その除外又は脱漏した財産が未分割であったというにすぎません。したがって、その財産のみの分割を行うことになるため、再分割という問題は生じません。ただし、その除外又は脱漏した財産の価額が当初の分割対象財産の価額に比して、きわめて多額に上るという場合には再分割をせざるを得ない場合があるとも考えられます。
また、相続財産に重大な瑕疵があることが事後に判明した場合には、共同相続人間の担保責任について、民法第911条において「各共同相続人は、他の相続人に対し、売主と同じく、その相続分に応じて担保の責任を負う」と規定し、瑕疵のある財産を取得した相続人は、他の相続人に損害賠償を請求することで解決すべきであるとしています。したがって、このような場合であっても、原則として再分割を行う理由にはならないことになります。
いずれにしても遺産分割のやり直しは、通常の場合には不可能と考えるべきであり、仮にそのやり直しをすると、その時点で新たな課税問題が生じる場合が多いことに留意する必要があります。

5.相続税法・国税通則法の参考法令

相続税法第27条(相続税の申告)

相続又は遺贈(当該相続に係る被相続人からの贈与により取得した財産で第21条の9第3項の規定の適用を受けるものに係る贈与を含む。以下子の条において同じ。)により財産を取得した者及び当該被相続人に係る相続時精算課税適用者は、当該被相続人からこれらの事由により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格(第19条又は第21条の14から第21条の18までの規定の適用がある場合には、これらの規定により相続税の課税価格とみなされた金額)の合計額がその遺産に係る基礎控除額を超える場合において、その者に係る相続税の課税価格(第19条又は第21条の14から第21条の18までの規定の適用がある場合には、これらの規定により相続税の課税価格とみなされた金額)に係る第15条から第19条まで、第19条の2から第20条の2まで及び第21条の14から第21条の18までの規定による相続税額があるときは、その相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内(その者が国税通則法第117条第2項(納税管理人)の規定による納税管理人の届出をしないで当該期間内にこの法律の施行地に住所及び居所を有しないこととなるときは、当該住所及び居所を有しないこととなる日まで)に課税価格、相続税額その他財務省令で定める事項を記載した申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。

相続税法第31条(修正申告の特則)

第27条若しくは第29条の規定による申告書又はこれらの申告書に係る期限後申告書を提出した者(相続税について決定を受けた者を含む。)は、次条第1項第1号から第6号までに規定する事由が生じたため既に確定した相続税額に不足を生じた場合には、修正申告書を提出することができる。
2 前項に規定する者は、第4条に規定する事由が生じたため既に確定した相続税類に不足を生じた場合には、当該事由が生じたことを知つた日の翌日から10月以内(その者が国税通則法第117条第2項(納税管理人)の規定による納税管理人の届出をしないで当該期間内にこの法律の施行地に住所及び居所を有しないこととなるときは、当該住所及び居所を有しないこととなる日まで)に修正申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
3 前項の規定は、同項に規定する修正申告書の提出期限前に第35条第2項第5号の規定による更正があつた場合には、適用しない。
4 第28条の規定による申告書又は当該申告書に係る期限後申告書を提出した者(贈与税について決定を受けた者を含む。)は、次条第1項第1号から第6号までに規定する事由が生じたことにより相続又は遺贈による財産の取得をしないこととなつたため既に確定した贈与税額に不足を生じた場合には,修正申告書を提出することができる。

相続税法第32条(更正の請求の特則)

相続税又は贈与税について申告書を提出した者又は決定を受けた者は、次の各号のいずれかに該当する事由により当該申告又は決定に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額(当該申告書を提出した後又は当該決定を受けた後修正申告書の提出又は更正があった場合には、当該修正申告又は更正に係る課税価格及び相続税額又は贈与税額)が過大となったときは、当該各号に規定する事由が生じたことを知った日の翌日から4月以内に限り、納税地の所轄税務署長に対し、その課税価格及び相続税額又は贈与税額につき更正の請求(国税通則法第23条第1項(更正の請求)の規定による更正の請求をいう。)をすることができる。
一 第55条の規定により分割されていない財産について民法(第904条の2(寄与分)を除く。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従つて課税価格が計算されていた場合において、その後当該財産の分割が行われ、共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従つて計算された課税価格と異なることとなつたこと。
二 民法第787条(認知の訴え)又は第892条から第894条まで(推定相続人の廃除等)の規定による認知、相続人の廃除又はその取消しに関する裁判の確定、同法第884条(相続回復請求権)に規定する相続の回復、同法第910条第2項(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)の規定による相続の放棄の取消しその他の事由により相続人に異動を生じたこと。
三 遺留分による減殺の請求に基づき返還すべき、又は弁償すべき額が確定したこと。
四 遺贈に係る遺言書が発見され、又は遺贈の放棄があつたこと。
五 第42条第30項(第45条第2項において準用する場合を含む。)の規定により条件を付して物納の許可がされた場合(第48条第2項の規定により当該許可が取り消され、又は取り消されることとなる場合に限る。)において、当該条件に係る物納に充てた財産の性質その他の事情に関し政令で定めるものが生じたこと。
六 前各号に規定する事由に準ずるものとして政令で定める事由が生じたこと。
七 第4条に規定する事由が生じたこと。
八 第19条の2第2項ただし書の規定に該当したことにより、同項の分割が行われた時以後において同条第1項の規定を適用して計算した相続税額がその時前において同項の規定を適用して計算した相続税額と異なることとなつたこと(第1号に該当する場合を除く。)。
九 次に掲げる事由が生じたこと。
イ 所得税法第137条の2第13項(国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)の規定により同条第1項の規定の適用を受ける同項に規定する国外転出をした者に係る同項に規定する納税猶予分の所得税額に係る納付の義務を承継したその者の相続人が当該納税猶予分の所得税額に相当する所得税を納付することとなつたこと。 ロ 所得税法第137条の3第15項(贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)の規定により同条第7項に規定する適用贈与者等に係る同条第4項に規定する納税猶予分の所得税額に係る納付の義務を承継した当該適用贈与者等の相続人が当該納税猶予分の所得税額に相当する所得税を納付することとなつたこと。
ハ イ及びロに類する事由として政令で定める事由三 遺留分による減殺の請求に基づき返還すべき、又は弁償すべき額が確定したこと。

国税通則法第23条(更正の請求)

納税申告書を提出した者は、次の各号のいずれかに該当する場合には、当該申告書に係る国税の法定申告期限から5年(第2号に掲げる場合のうち法人税に係る場合については、9年)以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等(当該課税標準等又は税額等に関し次条又は第26条(再更正)の規定による更正(以下この条において「更正」という。)があつた場合には、当該更正後の課税標準等又は税額等)につき更正をすべき旨の請求をすることができる。
一 当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従つていなかつたこと又は当該計算に誤りがあつたことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額(当該税額に関し更正があつた場合には、当該更正後の税額)が過大であるとき。
二 前号に規定する理由により、当該申告書に記載した純損失等の金額(当該金額に関し更正があつた場合には、当該更正後の金額)が過少であるとき、又は当該申告書(当該申告書に関し更正があつた場合には、更正通知書)に純損失等の金額の記載がなかつたとき。
三 第1号に規定する理由により、当該申告書に記載した還付金の額に相当する税額(当該税額に関し更正があつた場合には、当該更正後の税額)が過少であるとき、又は当該申告書(当該申告書に関し更正があつた場合には、更正通知書)に還付金の額に相当する税額の記載がなかつたとき。
2 納税申告書を提出した者又は第25条(決定)の規定による決定(以下この項において「決定」という。)を受けた者は、次の各号のいずれかに該当する場合(納税申告書を提出した者については、当該各号に定める期間の満了する日が前項に規定する期間の満了する日後に到来する場合に限る。)には、同項の規定にかかわらず、当該各号に定める期間において、その該当することを理由として同項の規定による更正の請求(以下「更正の請求」という。)をすることができる。
一 その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となつた事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき その確定した日の翌日から起算して2月以内
二 その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算に当たつてその申告をし、又は決定を受けた者に帰属するものとされていた所得その他課税物件が他の者に帰属するものとする当該他の者に係る国税の更正又は決定があつたとき 当該更正又は決定があつた日の翌日から起算して2月以内
三 その他当該国税の法定申告期限後に生じた前2号に類する政令で定めるやむを得ない理由があるとき 当該理由が生じた日の翌日から起算して2月以内
3 更正の請求をしようとする者は、その請求に係る更正前の課税標準等又は税額等、当該更正後の課税標準等又は税額等、その更正の請求をする理由、当該請求をするに至つた事情の詳細その他参考となるべき事項を記載した更正請求書を税務署長に提出しなければならない。
4 税務署長は、更正の請求があつた場合には、その請求に係る課税標準等又は税額等について調査し、更正をし、又は更正をすべき理由がない旨をその請求をした者に通知する。
5 更正の請求があつた場合においても、税務署長は、その請求に係る納付すべき国税(その滞納処分費を含む。以下この項において同じ。)の徴収を猶予しない。ただし、税務署長において相当の理由があると認めるときは、その国税の全部又は一部の徴収を猶予することができる。
6 輸入品に係る申告消費税等についての更正の請求は、第1項の規定にかかわらず、税関長に対し、するものとする。この場合においては、前3項の規定の適用については、これらの規定中「税務署長」とあるのは、「税関長」とする。
7 前2条の規定は、更正の請求について準用する。

2016.05.19

相続の放棄があった場合の相続税の申告と債務超過の相続

相続税の基礎控除額の計算や相続税の総額を求める場合の相続人は、相続の放棄があった場合であっても、その放棄がなかったものとした場合における相続人とされています。相続の放棄とは被相続人の財産に属した権利義務の承継を拒否する行為であり、相続を放棄すると、その相続放棄者は、その相続に関しては初めから相続人とならなかったものとみなされることになります。

1.相続放棄による債務超過の相続への対応

相続税の申告事案には、さまざまなケースがありますが、ときには債務超過の相続に関わることがあります。相続財産が明らかにマイナスであるときは、債務の引継を免れようとする相続人にとっては相続の放棄は実益があることになります。この場合には、通常は相続税の申告を要しないことになります。債務超過の相続についての対応には限定承認相続もありますが、一般的には相続の放棄を選択される相続人が多く存在します。
相続の放棄をするためには、民法915条及び938条の規定により、相続の開始があったことを知った日から3か月以内に相続放棄申述書を被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に提出しなければなりません。この3か月という熟慮期間が問題で、相続財産の内容が複雑だったり債務の存在と金額を確認するために相当の期間を要すると見込まれるなどの理由がある場合には、熟慮期間を延長することを家庭裁判所に請求することができますが早急な対応が必要となります。

2.限定承認相続による債務超過の相続への対応

相続の放棄と同様に債権者の犠牲のもとに相続人を保護する制度として、相続財産の範囲内で相続債務を負担するという限定承認相続があります。相続について限定承認を行うには民法924条の規定により、相続の開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所に家事審判申立書により申立てをしなければなりません。上記1の相続の放棄と異なる点は、限定承認の申立ての場合は相続人の全員が行わなければならないので共同相続人の一部に単純承認をする人があれば、他の相続人は限定承認をすることはできませんので注意が必要です。更に所得税法59条の規定により、限定承認を行った場合には被相続人に対する「みなし譲渡」の規定が適用されるなど、税務上の取扱いにも留意する必要があります。

3.相続の放棄があった場合の相続人と相続税の計算

相続税の基礎控除額や相続税の総額を求める場合の相続人は、相続の放棄があった場合であっても、その放棄がなかったものとした場合における相続人とされています。

(1)法定相続人の法定相続分による相続税の計算

例えば、夫が死亡し、その配偶者とその子である長男と長女が父の遺産を相続するにあたり配偶者と長男が相続を放棄した場合でも、相続税の基礎控除額や相続税の総額を求める場合の相続人は配偶者と長男と長女の3人であり、その法定相続分は配偶者が2分の1、長男及び長女が各々4分の1となります。

(2)法定相続人の数により計算する相続税の非課税限度額

上記(1)の例題の場合に生命保険金や退職手当金の非課税限度額は、500万円×法定相続人3人で1,500万円となります。
注1)被相続人の死亡により相続人等が受け取る保険金は、被相続人に帰属した後に相続人等が取得するのではなく、保険契約に基づいて、被相続人の死亡という事実の発生によって相続人等が受け取るべきものであり、法律的には、相続により取得した財産ではありませんが、被相続人が保険料を負担し、その死亡により相続人等が受け取る保険金は、本来の相続財産と経済的実質は何ら異なるものではありませんので相続税法は生命保険金等を「みなし相続財産」として、相続税を課税することにしています。
注2)被相続人の死亡により被相続人に支給されるべきであった退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与(弔慰金、花輪代、葬祭料等のうち実質的に退職手当金の性質を有するものを含みます。)は、相続人または相続人以外の者が支給者から直接に支給を受けるものであって、本来の相続財産を構成するものではありません。
注3)被相続人に支給されるべきであった退職手当金等の実質は、被相続人が死亡したために相続人等に支給されたもので、本来の相続財産と経済的実質は何ら変わりませんから、生命保険金と同様に、相続税法は退職手当金等を「みなし相続財産」として、相続税を課税することとしています。
注4)この生命保険金等や退職手当金等のみなし相続財産のうち、相続人が取得したものについては、生命保険制度を通じて貯蓄増進を図る見地のほか、残された相続人の生活安定等の社会的見地から、一定の金額が非課税とされています。
この非課税とされる一定の金額、すなわち非課税限度額は、500万円に相続人の数を乗じて計算することになりますが、この場合の相続人数も、基礎控除額や相続税の総額を算出するための相続人と同様に計算することになります。
注5)生命保険金等や退職手当金等の一定金額の非課税の規定は、被相続人死亡後の相続人の生活の安定等のために設けられたものであり、その適用が受けられる者は相続を放棄した者や相続権を失った者以外の相続人に限られています。 したがって、例題の相続人における生命保険金や退職手当金の非課税限度額は、500万円に、相続の放棄がなかったものとした場合における相続人の数(=3人)を乗じた金額(=1,500万円)となりますが、母親と長男は相続を放棄しているため、仮にこの2名が生命保険金や退職手当金を受け取ったとしても、非課税計算の対象とはならず、全額がみなし相続財産として相続税の課税対象になります。

(3)法定相続人の数により計算する相続税の基礎控除額

上記(1)の例題の場合、被相続人の配偶者と長男は相続の放棄をしていますが、相続税の基礎控除額や相続税の総額を算出するための相続人は、その放棄はなかったものとした場合の相続人となりますので平成27年1月1日以後に開始する相続に適用される遺産に係る基礎控除額は、次の通りとなります。
(3,000万円+600万円×法定相続人の数 3)= 基礎控除額 4,800万円

4.相続の放棄・限定承認について民法の参考法令

民法 第四章 相続の承認及び放棄 第一節 総則
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。
(限定承認)
第922条  相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。
(共同相続人の限定承認)
第923条  相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。
(限定承認の方式)
第924条 相続人は、限定承認をしようとするときは、第915条第1項の期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。(限定承認をしたときの権利義務)
第925条 相続人が限定承認をしたときは、その被相続人に対して有した権利義務は、消滅しなかったものとみなす。
(限定承認者による管理)
第926条 限定承認者は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理を継続しなければならない。
民法 第四章 相続の承認及び放棄 第三節 相続の放棄
(相続の放棄の方式)
第938条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
(相続の放棄の効力)
第939条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
(相続の放棄をした者による管理)
第940条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

2016.05.17

相続税の申告・遺言の有無と遺言控除案の行方について

相続税の基礎控除額の引下げによる増税の最中に、昨年浮上してきた相続税を減税する遺言控除は、相続税の基礎控除に上乗せして一定額を控除する新たな控除制度の創設案でした。その遺言控除は、相続について遺言に基づいた遺産分割を促進し遺産分割をめぐる紛争を抑止することや介護による貢献に見合った遺産相続を促進することを目的に「自民党内の家族の絆を守る特命委員会」が、亡くなった被相続人の遺言に基づいて相続がされた場合に有効な遺言による相続を条件として一定額を相続税の基礎控除額に上乗せして控除するという相続税の減税案です。早ければ平成29年度税制改正での実施を目指すと報じられている遺言控除ですが、賛否両論があり今後も注視していかなければなりません。 相続税の申告を依頼された場合には、依頼者に民法の相続制度について説明して理解を得て業務を進めていきます。相続財産の分割などの相続に関する手続や申告業務は、遺言の有無によって大きく異なるため、相続が開始した場合には、まず遺言があるかどうかや遺言書があったときは、それが適法かつ有効なものかどうかを確認します。

1.一般的な普通方式の遺言の3種類について

民法に規定する遺言の方式には、一般的な普通方式である3種類と特別方式である4種類がありますが、これ以外の方式の遺言は認められていませんので注意が必要です。民法の条文確認は、遺言の種類と方法を御覧下さいませ。
一般的な普通方式の遺言である自筆証書遺言、公正証書遺言及び秘密証書遺言の3種類は以下の通りです。
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(1)自筆証書遺言
① 自筆証書遺言は、その全文と日付及び氏名を遺言者が自筆して遺言書に印を押す方式をいいます。全文を自筆することが必要であり、代筆、タイプライター、録音テープなどによるものは遺言としての効力は認められていませんので注意が必要です。
② 複数の遺言があった場合に何れの遺言を有効とするかを判定するための日付、氏名、実印である必要はありませんが捺印のいずれを欠いても、その遺言は無効となります。
氏名については、氏または名だけの自筆であっても遺言者が特定されれば、その有効性は認められていますが、遺言の確実を期するためには氏及び名を記載する方がよいといえます。
③ 自筆証書中の加除やその他の変更要件については、極めて厳格で遺言者が変更した場所を指示して、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、その変更の場所に印を押さなければ効力がありませんので注意して下さい。

(2)公正証書遺言
公正証書遺言は、公証人によって公正証書として作成してもらい更に公証人役場に保管される方式の遺言をいいます。例えば、遺言者の自宅や入院先の病室など公証人役場以外の場所で作成してもらうこともできますので便利です。
公正証書遺言作成の要件は、次のとおりです。
① 2人以上の有資格の証人が立合うこと。
この場合の有資格の証人とは、「(ⅰ)未成年者、(ⅱ)禁治産者、準禁治産者、(ⅲ)推定相続人、受遺者及びその配偶者並びに直系血族、(ⅳ)公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び雇人」以外の者をいいます。
② 遺言者が、遺言の趣旨を公証人に口頭で述べること。
したがって、文書の朗読による口頭の陳述は認められますが、文書を単に公証人に渡すだけではいけないことになります。
③ 公証人が遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせること。
④ 遺言者及び公証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。但し、遺言者が署名することができない場合には、公証人がその事由を付記して署名に代えることができます。
⑤ 最後に公証人が、その証書を①から⑤の方式に従って作成したものである旨を付記してこれに署名し、印を押すこと。

(3)秘密証書遺言
秘密証書遺言は、遺言の内容を秘密にするため封をしますが、その遺言の存在を明確にするため公証人に提出しておく方式の遺言をすることもできます。
秘密証書遺言作成の具体的な手順は次の通りです。
① 遺言者が遺言証書を作成し、これに署名し、印を押すこと。
遺言証書は自筆である必要はなく、代筆やタイプライターその他点字機の使用も認められますが、署名については必ず自筆が要件とされています。しかし、加除変更については自筆証書遺言の場合と同じ方式でしなければなりませんので注意が必要です。
② 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いたのと同じ印章で封印すること。
③ 遺言者が公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨とその筆者の氏名、住所を申述すること。
証人欠格は、公正証書遺言の場合と同じです。筆者の氏名、住所の申述は、後日、遺言内容に疑義が生じた場合の便宜のために行います。
④ 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
以上の要件を満たさないと秘密証書遺言としては無効となります。それが自筆証書遺言の方式を具備するものであれば、自筆証書遺言としての効力が認められます。
例えば、遺言証書の印と異なる印章で封印すると、秘密証書遺言としては無効となりますが、遺言者が、証書の全文を自筆し、日付も記載されているときは、自筆証書遺言として有効になります。

2.特別方式の遺言の4種類について

特別方式の遺言とは、普通方式による遺言が困難又は不可能な場合に認められる方式です。具体的には、①死亡危急者の遺言、②伝染病隔離者の遺言、③在船者の遺言、④船舶遭難者の4種類の遺言が認められています。依って、特別方式の遺言は、遺言者が普通方式による遺言ができるようになった時から6ヶ月間生存するとその効力が失われることになっています。

① 死亡危急者の遺言について

疾病その他の事由で危篤に陥った者が遺言をしようとするときは、証人3人以上の立会いのうえ、遺言の趣旨を口述し、証人の1人が筆記することにより行われます。
その筆記者は、遺言者と他の証人にその内容を読み聞かせ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、押印しなければなりません。
この遺言は、遺言のあった日から20日以内に、証人の1人または利害関係人から家庭裁判所に請求し、その確認を得て有効になります。

② 伝染病隔離者の遺言について

伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所に在る者は、警察官1人と証人1人以上の立会いのうえ、遺言書を作ることができます。
伝染病患者でなくても、その場所からの外出を禁じられている者は、この方式による遺言ができます。伝染病以外の理由で行政処分が行われた場合(例えば刑務所内にある者)も同様であると解されています。

③ 在船者の遺言について

船舶中に在る者は、船長または事務員1人及び証人2人以上の立会いのうえ、遺言書を作ることができます。

④ 船舶遭難者の遺言について

船舶が遭難した場合に、その船舶中にあって危篤に陥った者は、証人2人以上の立会いをもって、口頭で遺言をすることができます。しかし、この遺言は、証人が遺言の趣旨を筆記し、これに署名、押印し、かつ、証書の1人または利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求して確認を得なければ効力を生じません。死亡の危急と船舶の遭難が重なった場合であるため、要件が緩和されています。

3.遺言書の保管と遺言の執行について

公正証書遺言については、原本を公証人が150年保管管理しており、遺言書が破棄・隠匿された場合でも公証人役場で謄本を入手することができます。全国のすべての公正証書遺言がオンラインで一元管理されており、遺言者の死亡後であれば、全国いずれの公証人役場でもその有無が確認できるようになっています。
公正証書遺言による遺言書以外の遺言書の保管については、特に規定はなく、遺言者自らの責任で行う必要があります。遺言者が死亡したならば、公正証書遺言による遺言書以外の遺言書については、その遺言書の保管者又は発見者は、相続の開始を知った後、遅滞なくこれを家庭裁判所に提出して、その検認を受けなければなりません。自筆証書遺言については、封印のある遺言書を家庭裁判所以外の場所で開封をした場合や検認を怠った場合には、5万円以下の過料に処することとされています。
この家庭裁判所の検認は、証拠保全手続ですから、改変のおそれがなく形式の確実な公正証書遺言では検認を必要としません。秘密証書遺言のように封印のある遺言書の検認には、開封が必要であることから、家庭裁判所において相続人またはその代理人の立会いのもとで開封してもらうことになります。
遺言の効力が発生すると、その内容のいかんによっては、遺言内容を実現する者を必要とする場合があります。これを遺言執行者といい、遺言によって指定されまたは遺言で指定を委託された第三者によって指定されることになります。また、利害関係人の請求によって家庭裁判所で選任される場合もあります。
遺言執行者は、財産目録の作成、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有することになります。

2016.05.13

相続税の申告における相続人の確認と法定相続分など相続分について

相続税の申告では民法の規定により相続人を確認します。その相続分について遺言のない相続では法定相続分、特別受益者の相続分、遺留分、寄与分など民法の規定をめぐって遺産分割の争いとなることも少なくありません。相続税の総額の基となる税額を算出するときに民法に定める法定相続分に従って取得したものとして法定相続分に応ずる各法定相続人の取得金額を求めますが、今回はまず最初に民法の規定から相続人の範囲や法定相続分など相続分について確認してみましょう。

1.相続人の範囲について

死亡した人の配偶者は常に相続人となり、配偶者以外の人は、次の順序で配偶者と一緒に相続人になります。 相続を放棄した人は初めから相続人でなかったものとされます。相続を放棄した人とは、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所に相続の放棄の申述をした人のことをいいます。相続の放棄の申述をしないで、事実上、相続により財産を取得しなかった人はこれに該当しません。
また、内縁関係の人は、相続人に含まれませんので注意が必要です。

(1) 第1順位は、死亡した人の子供です。

その子供が既に死亡しているときは、その子供の子供や孫など直系卑属が相続人となります。子供も孫もいるときは、死亡した人により近い世代である子供の方を優先します。

(2)第2順位は、 死亡した人の父母や祖父母など直系尊属です。

父母も祖父母もいるときは、死亡した人により近い世代である父母の方を優先します。 第2順位の人は、第2順位の人がいないときに相続人となります。

(3)第3順位は、死亡した人の兄弟姉妹です。

その兄弟姉妹が既に死亡しているときは、その人の子供が相続人となります。
第3順位の人は、第1順位の人も第2順位の人もいないときに相続人となります。

2.相続人の法定相続分について

民法に定める法定相続分は以下の通りですが、相続人の間で遺産分割の合意ができなかったときの遺産の取り分とも言えます。法定相続分は相続税の総額の基となる税額を算出するときにも用いますが必ずしもこの相続分で遺産の分割をしなければならないわけではありませんので注意が必要です。以下において子供、直系尊属、兄弟姉妹がそれぞれ2人以上いるときは、原則として均等に分けます。

(1)配偶者と子供が相続人である場合

配偶者1/2 子供1/2(2人以上のときは全員で1/2)

(2)配偶者と直系尊属が相続人である場合

配偶者2/3 直系尊属1/3(2人以上のときは全員で1/3)

(3)配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合

配偶者3/4 兄弟姉妹1/4(2人以上のときは全員で1/4)

3.相続人の確認と相続人の確定方法等について

(1)戸籍謄本の収集による相続人の確認について

① 相続税の申告実務では、被相続人と相続人の関係を明らかにして相続人を特定するために、被相続人と相続人の戸籍謄本(戸籍の全部事項証明書)を収集しています。
② 不動産の相続登記において、登記原因証明情報(相続証明書)を添付しなければならないので、相続人に漏れのないことを証するために被相続人の出生時から(不動産の登記実務においては被相続人の13歳ころからの場合もある様です。)死亡時までの連続した戸籍謄本を収集します。
③ 戸籍は、明治4年の戸籍法の制定により編成されたのが最初です。その後数次にわたって様式が改められて現在行の様式は、昭和22年に制定されたものです。平成6年に戸籍法の改正があり、戸籍を磁気ディスクで調製するという戸籍のコンピュータ化が行われています。 戸籍の様式が変更されると戸籍事項が旧戸籍から新戸籍に移記されますが、これを戸籍の改製といいます。新戸籍が編成された場合の旧戸籍を改製原戸籍といいます。そこで戸籍のコンピュータ化によって調整されると紙ベースによる戸籍は、改製原戸籍となります。
④ 戸籍の改製により新戸籍に記載される者は、その時点で籍を有する者だけであって既に除籍された者は記載されないので、相続人を確認する相続証明書の作成に当たって通常の場合は、改製原戸籍を含めた複数の戸籍が必要になります。
⑤ 戸籍のコンピュータ化によって各市区町村で発行される証明は、それぞれ以下の通りです。
イ.コンピュータ媒体による証明書類の場合
・戸籍の全部事項証明書・戸籍の個人事項証明書・戸籍の一部事項証明書・除かれた戸籍の全部事項証明書・除かれた戸籍の個人事項証明書・除かれた戸籍の一部事項証明書
ロ.紙媒体による証明書類の場合
・戸籍謄本・戸籍抄本・戸籍の記載事項証明書・除籍謄本・除籍抄本・除籍の記載事項証明書

(2)戸籍謄本の収集方法について

① 戸籍謄本(戸籍の全部事項証明書)等は、その人の本籍地の市区町村役場に戸籍謄本等請求書を提出して交付を受けることができます。
ただし、戸籍には個人のプライバシーに関することが記載されているため、戸籍謄本等は原則として戸籍筆頭者のほかに、その人の配偶者や直系卑属及び直系尊属以外の人は請求することはできないことになっています。
② 委任により弁護士、司法書士、税理士等が相続や相続税の申告など職務上の必要に基づいて独自に戸籍謄本等の交付を請求することは可能です。この場合には、請求者の資格の確認のために一定の統一用紙によることとされています。私達、税理士の場合には相続税申告の税務代理にあたり「戸籍謄本・住民票の写し等職務上請求書」により交付請求を行っています。この職務上請求書は、所属税理士会が交付した交付番号付きの用紙のみが有効であり、これをコピーして使用することは禁止されていますので依頼される場合には確認して下さい。

(3)戸籍謄本等の見方と収集の範囲について

戸籍には、本籍及び氏名(戸籍筆頭者)の他に、「戸籍事項」として戸籍の編成事由、編成した年月日などの記載があり、「身分事項」として出生、婚姻、養子縁組、認知、死亡などの記載があります。以下の戸籍を収集すれば、相続の証明ができるとともに相続人を確定することになります。
① コンピュータ化された戸籍の全部事項証明書では、身分事項欄に死亡と記載され、例えば私が死亡した場合には、被相続人田中操が死亡日平成○○年○月○日死亡時分○時○○分に死亡して、戸籍に記載されている者欄に除籍と記載されることになります。この除籍を記載した戸籍には、戸籍事項欄の戸籍改製として平成○○年○月○日と戸籍改製日が記載されており、改製事由として「平成6年法務省令第51号附則第2条第1項による改製」などと記載されています。そこで、この戸籍は、被相続人の戸籍編成時(平成○○年○月○日)から死亡時までの戸籍であることが確認できます。
② そこで戸籍謄本等の収集範囲は、平成○○年○月○日以前の戸籍(改製原戸籍)に遡っていく必要があります。したがって、被相続人の出生時までの改製原戸籍を遡って収集することになります。
③ 被相続人の相続人である子が婚姻をしていれば、同人の新たな戸籍が編成されるために除籍されているので、その子が生存していることを確認するため、同人の戸籍も収集する必要があります。

4.相続人の指定相続分について

再び相続分についてですが、被相続人は遺言によって共同相続人の全部又は一部の人について、その相続分を指定し又はその指定を第三者に委託することができます。相続分の指定がある場合には、法定相続分に優先することになります。
共同相続人の一部の人について相続分の指定があった場合の他の相続人の相続分は、民法第902条2項の規定により、指定相続分以外の部分を法定相続分で配分することになります。また、民法第902条1項但し書きの規定により、その相続分の指定に当たっては、遺留分の規定に反することはできないとされていますが、遺留分に反する指定をした遺言が直ちに無効になるわけではなく、遺留分を侵害された人は、他の相続人又は受遺者に対して減殺の請求をして相続財産を確保することとされています。

5.特別受益者たる相続人の相続分について

共同相続人間の実質的な公平を図るために、共同相続人のうちに被相続人から遺贈を受け又は生前贈与を受けている人を特別受益者として、相続分の算定において持戻し計算をする旨を民法は規定しています。
特別受益がある場合の持戻し計算は、未分割遺産がある場合の相続税の課税価格の計算にも採用されています。相続人間で遺産分割をめぐる紛争が生じた場合には、この特別受益の有無とその価額や算定時期が問題となり当事者にとっては重要な関心事となっています。明らかに特別受益に該当するものであっても被相続人が遺言等で特別受益を考慮せずに相続分を算定するという意思表示をしたときには、遺留分に反しない範囲内で有効なものとしています。

6.相続人の寄与分について

いわゆる寄与分制度として民法の規定により「共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加につき特別の寄与をした者」については、法定相続分・指定相続分・特別受益者の相続分とは別に相続財産を取得できることとしています。
そこで相続分に関して、この寄与相続分を主張する相続人がいる場合があり遺産分割協議が紛争になることも少なくありませんが、寄与分は通常の寄与ではなく特別の寄与があった場合にのみ認められることを踏まえて遺産分割協議をされることを拙に願っています。

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